『つかみ損ねた恋に』（原題：我沒有談的那場戀愛、I Missed You）は、2021年2月に公開された台湾の恋愛映画。徐譽庭（シュー・ユーティン）、許智彥（シュー・ツーイェン）監督。吳慷仁（ウー・カンレン）、艾怡良（イブ・アイ）、傅孟柏（フー・モンボー）、9m88（ジョウエムバーバー）ら主演。
日本では2021年8月1日からNetflixで『つかみ損ねた恋に: ディレクターズカット』として配信開始。台湾での上映が終了してから、監督の徐譽庭（シュー・ユーティン）氏は新たな観点から表現したいと思い、「ディレクターカット」版を改めて制作のうえ、Netflixで配信を開始した。
本作は、台湾で人気なSNS「Facebook」のブロックをきっかけにストーリーが展開される。SNSで知り合いをブロックする理由は、失恋の悲しさ、意地、相手へ対する怒りなど、理由は人それぞれ。しかし、果たしてブロックだけで本当に相手のことを忘れることができるのか？
そんな現代人の悩みを、30代女性の主人公が体験した「あの頃始まることのなかった恋」を通して掘り下げている。ちょっぴり切なくも、最後はほっこり感動させられる暖かい映画である。
『つかみ損ねた恋に』のあらすじ
33歳の「郭勤勤」（グオ・チン）は真面目で仕事もできるが、ストレートで物怖じせず、遠慮しない性格のため、会社で「面癱姐」（仏頂面な女）というあだ名をつけられる。
独身、友人も少なく、Facebookで繋がっている知人も少ないものの、Facebookで2人の男性をブロックしている。
1人はCMディレクター「南之仰」（ナン・ジーヤン）。彼は映画監督を夢見るが、恋愛スキルの方が監督としての才能よりも優れている。もう1人の男は「趙書維」（ジャオ・シューウェイ）。優しい人だが、優しすぎるゆえ、よく郭勤勤を誤解させ、失望させてしまう。
この2人の男をブロックしてから5年経った今、郭勤勤（グオ・チン）はようやく2人のブロックを解除することを決意し、同時に自分の心に蓋をすることも止めることに……。
▼予告（英語字幕つき）
『つかみ損ねた恋に』の登場人物 / キャスト
※以下ネタバレにご注意！
※画像はYahoo奇摩電影「我沒有談的那場戀愛」より引用
郭勤勤（グオ・チン）/ 演：艾怡良（イブ・アイ）
SNSプラットフォームの会社のデータ班で働く33歳の女性。独身。仕事ができる女性だが、自分やまわりに厳しく、部下から疎まれてしまう。
あまり笑わず、仕事に没頭するが、実は5年前のある恋が理由であった。
南之仰（ナン・ジーヤン）/ 演：吳慷仁（ウー・カンレン）
郭勤勤（グオ・チン）の同母異父の兄。CMディレクターとして働くが、夢は映画監督になること。もともと妻子がいたが、夢を追うために収入が不安定のため別れてしまう。
15人もの彼女と付き合ってきた女たらしだが、検査で大腸ガンを疑われた時は、誰一人から相手されず、妹の郭勤勤（グオ・チン）の家に転がり込むことに。
趙書維（ジャオ・シューウェイ）/ 演：傅孟柏（フー・モンボー）
郭勤勤（グオ・チン）の元同僚。彼女が片思いをしていた相手。
会社の忘年会で東京行きのペアチケットが当たり、「一緒に行こう」と郭勤勤（グオ・チン）を誘うが、曖昧な関係を白黒させず、元カノにも優しかったことで何度か喧嘩をする。
黃小喵（ミャオ）/ 演：9m88（ジョウエムバーバー）
郭勤勤（グオ・チン）のチームで働く後輩。連日続く残業や郭勤勤（グオ・チン）の厳しい仕事ぶりに疑問を感じ、ストレートに彼女にぶつかることもあった。
会社の同僚たちとよく「コンビニでお酒を買い、次のコンビニにつくまで歩き飲みして飲み干す」ゲームをする。元カレに未練がある。
『つかみ損ねた恋に』の感想
※以下ネタバレにご注意！
対極的な恋愛観：一人の愛した人を忘れられない女性と、複数の恋で寂しさを紛らわす男性
映画の冒頭では、無表情で近寄りがたい主人公郭勤勤（グオ・チン）と、服装も派手でひょうきん者の南之仰（ナン・ジーヤン）のギャップが印象的だが、話が進むにつれて、2人とも手に入れることのできなかった「恋人からの愛」「親からの愛」に飢えており、それぞれ違う方法で喪失感から逃げていたことが分かる。
主人公の郭勤勤（グオ・チン）は、元同僚の趙書維（ジャオ・シューウェイ）にずっと片思いをしていたが、徐若瑄（ビビアン・スー）が好きだから同じパーマをかけようという健気な一面もあるも、不器用で素直に「好き」の気持ちを伝えられなかった。約束していた東京旅行にも行くことなく、彼との恋が成就しなかったため、SNS、メール、電話での連絡を絶ち、彼を忘れるために仕事に全力で打ち込む。
だが、映画の後半に進むと、ブロックした趙書維（ジャオ・シューウェイ）は、実は東京旅行で空港に向かう途中、車の事故に遭ったことが明かされる。郭勤勤（グオ・チン）は自責の念や悲しさから彼のFacebookをブロックし、過去の思い出や自分の気持ちも封印していたのだ。
自分の感情に蓋をして、新しい恋も始められない郭勤勤（グオ・チン）と異なり、同母異父の兄・南之仰（ナン・ジーヤン）は、逆に数多の恋をすることで、忘れられない一つの恋や、母親からの愛情を得られなかった喪失感を埋めているように思える。
彼は一度結婚しており、子供もいたが、映画監督の夢を追うために妻子に安定した生活を与えられず、また家族も顧みない日々を過ごしていたため、価値観の違いから分かれることに。その後15人もの彼女を作り、愛に溺れる生活を過ごしていたかと思いきや、大腸ガンが疑われ、入院や手術する際に「お葬式に来てくれるよね？」と彼女一人ひとりに電話したところ、誰からも相手にされなかった。
頼れる彼女がおらず、退院後は妹の家に居候する南之仰（ナン・ジーヤン）は、自分の立場を「独り身で自由、気楽だ」と語るが、後に幼少期の思い出が語られる。彼は幼少期に父親がいなくなり、父方のおばあちゃんに引き取られるが、母親が会いに来てくれることをいつも待ち望んでいた。ただ、結局母親には引き取られることなく、母親の愛に飢えていた反動で、恋多き男に成長したのではと思われる。
「さようなら」から知らされる恋、「ありがとう」から始まる家族愛
郭勤勤（グオ・チン）は5年の時間をかけて、「愛されなくても、さようならは言わなくちゃ。一度愛した人だから」と思えるようになる。Facebook上の趙書維（ジャオ・シューウェイ）に対するブロックを解除し、彼にメッセージを送ってみると、「実は彼も郭勤勤（グオ・チン）のことが好きで、ずっと告白の計画をしていた」と、彼の母親の返信を通じて知らされる。
趙書維（ジャオ・シューウェイ）との曖昧な関係を、しっかり「さようなら」を告げて終わらせようとしたからこそ、彼女は「原來，我早就在那場戀愛裡（私はとっくに愛されていたんだね）」と、恋は始まっていたことを知るのだ。そして「始めあるものは必ず終わりあり」、この恋に始まりを与えることで、しっかり終わりのケジメをつけることができた。
一方兄の南之仰（ナン・ジーヤン）は、過去に郭勤勤（グオ・チン）の恋の手助けをしようと思って、勝手にライブ配信を行い、そのためか郭勤勤（グオ・チン）から疎まれてブロックされる。その5年後に、入院や手術を機に2人は再会し、「自分のことを嫌うのはもうやめよう」とお互いの過去を振り返る。
南之仰（ナン・ジーヤン）にとって、妹とお互いのカッコ悪い面を分かち合い、わだかまりが解けていくことで「家族愛」を感じる。また、最後に病気のことを母親に知られ、幼少期の寂しさを打ち明け、頭を撫でられるシーンで、やっと母親の愛をしっかりと受け止めることができたのだろう。
なお、主人公の会社の後輩・黃小喵（ミャオ）は、元カレに未練があり、南之仰（ナン・ジーヤン）とコンビニで接触した際も、勝手に元カレの電話番号を渡してしまう。だが、「愛したからこそしっかりさようならを言わなきゃ」と郭勤勤（グオ・チン）の独り言に感化され、自分も元カレに「バイバイ」を告げることができたのだ。
『つかみ損ねた恋に』の見どころ
映画内では、Facebookの投稿画面やタイムライン、投稿を入力中の画面が多く、SNSを眺めている気分になるのが斬新だった。それゆえストーリーの時間軸が分かりづらいところもあるが、最後まで見ると話が繋がるはず。
話の主軸「しっかりさようならを言わないと恋は終わらないし、自分の生活も前に進まない」は、ありきたりな話に見えるが、本作を通して、改めて自分や相手に「對不起（ごめんなさい）」「謝謝你（ありがとう）」そして「我愛你（あいしてる）」を言うことが、いかに大事なのに難しいのかを知らされる。
ちなみに郭勤勤（グオ・チン）を演じる艾怡良（イブ・アイ）は、台湾の有名な歌手。本映画が女優としてのデビュー作。主題歌の「我這個人」も彼女が主人公の心情を想像して作詞作曲し、歌った曲である。
南之仰（ナン・ジーヤン）を演じる吳慷仁（ウー・カンレン）は、『つかみ損ねた恋に』に出演する直前まで、台湾ドラマ『斯卡羅 SEQALU：Formosa 1867』のために10kg痩せ、その後本映画のために20kgも増量したという。体重変化もそうだが、あまり見ない調子者のキャラも新鮮だった。
洋画『(500)日のサマー』や『ワン・デイ 23年のラブストーリー』のような、切なくもぬくもりを与えられる映画が好きな方にはお勧めしたい台湾映画だ。
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