『路~台湾エクスプレス~』の概要:台湾の歴史や言語について

2020年5月16日(土)より、台湾のテレビ局PTSと、日本NHKが共同制作したドラマ『路(ルウ)~台湾エクスプレス~』が三回連続で放送されています。主に台湾を舞台に物語が展開していきますが、よりドラマの内容を楽しめるよう、日本在住の台湾人の視点から、台湾の歴史や文化について紹介したいと思います。

『路』のあらすじ(ネタバレなし)

このドラマは、『悪人』などでもお馴染みの吉田修一が書いた原作小説『路』をもとに製作されています。ネタバレなしで少しだけあらすじを紹介します。


総合商社に勤める主人公の多田春香は、台湾新幹線プロジェクトの一員として台湾に出向する。彼女は大学時代に一人台湾へ旅行に行ったことがあり、その時に出会った青年エリックと、ひと夏の切ない思い出があったが、その後再会することもなく、この記憶を封印してしまった。

そこから6年後、春香は新幹線開設のために再び台湾を訪れる。台湾新幹線プロジェクトを主軸に、春香やプロジェクトの同僚、台湾に住む人々、そしてエリックの物語が動き出す。果たして、春香はエリックと運命の再会を果たせるのか・・・??


私は原作小説を読みましたが、春香とエリックの線をはじめ、同僚安西とユキ、「湾生」の葉山勝一郎、高雄に住む幼馴染カップル・陳威志と張美青の話など、複数の線が鉄道線路のように交差していくところがうまく描かれ、読み応えがありました。

今回改めてドラマを見ると、馴染みの景色や言葉がたくさん出てきたので、台湾人が着目したポイントを説明していきます。

鉄道の二強:「高鉄」と「台鉄」

台湾新幹線こと「台湾高速鉄道」は、台湾では「高鉄」と呼ばれています。ドラマの冒頭で、「高鉄?」と春香が台湾人の同僚に聞き返していましたね。

台灣高速鐵路(高鐵)

ドラマの内容通り、高鉄は1999年から建設を始め、2007年に開通しました。もともと最北端の台北(正確には基隆)から、南の高雄まで、在来線やバスなどで4~5時間ほどかかったものの、高鉄が完成してから1.5~2時間まで短縮されました。

本事業は台湾で初めてのBOT方式(※)によるもので、「台灣高速鐵路股份有限公司」という企業が建設・運営を行っています。運営開始後は財政難などのうわさもありましたが、路線の増設などもあり、現在も問題なく継続しています。なお、2022年現時点では、台湾政府の交通部(日本の国土交通省にあたる)が43%の株を保有しています。

※BOT (Build-Operate-Transfer):民間事業者が建設 (Build)を行い、運営・維持・管理 (Operate)した後、公共に所有権移転・運営権移転 (Transfer)を行なう仕組みのこと。

出典:「路~台湾エクスプレス~ | NHK 土曜ドラマ

路線図は下記の通り、北から南まで縦断しています。私も大学に入ってから、何度か高鉄に乗って台南まで遊びに行きましたが、本当に早くて便利でした。

出典:Wikipedia

臺灣鐵路管理局(台鐵)

一方、高鉄が完成する前は、もともと「台湾鉄道」、略して「台鉄」という在来線がありました。台鉄は交通部(台湾の国土交通省)が管理する鉄道です。歴史が長く、台湾が清朝に統治されていた時から日本植民地時代を経て現在に至ります。

車種も多く、普通車から快速、特急まで色々あり、観光客に人気な九份まで行く時に乗るローカル線「平渓線」も、すべて台鉄の一員なのです。下の路線図を見ると、高鉄ではいけない東の方や、各地のローカル線など、幅広く網羅されていますね。(真ん中に鉄道がないのは、中央山脈が走っているからです。)

出典:Wikipedia

ちなみに、台鉄というとローカル感満載の「鉄道弁当」が有名です。また、今は少し良くなりましたが、よく遅延することでも有名でした。私も高校の時から台鉄で通学していましたが、遅延すると駅で夜食を爆食いして電車を待っていました(笑)

これが「区間車」と呼ばれる普通車です。

出典:Wekipedia

「中国語(北京語)」と「台湾語」

このドラマのすごいところは、日本や台湾の役者さんが、日本語や英語、中国語など、多言語で話すところですね。

ドラマの途中から舞台が変わり、台湾南部の高雄に住む青年・陳威志と、幼馴染の張美青が登場します。陳威志が実家でお母さんと話している時、実は中国語ではなく、「台湾語」という言葉を話しています。

台湾の歴史と言語

ここから台湾の歴史を簡単に紹介します。台湾という島に漢民族がやってくる大昔前、もともと原住民が住んでいました。明朝・清朝の時代になると、福建省・広東省をメインに漢民族が移民してきて、そこから福建語(後の台湾語)が広まります。その後、日清戦争で清朝が敗れると、1985年~1945年の間、台湾は日本の植民地となりました。この時、台湾に日本人が多くやってきて、学校では日本語の教育もされたようです。

そして1945年になると、第二次世界大戦で敗れた日本は、台湾の統治権を清朝に返しますが、その頃すでに清朝はなくなり、「中華民国」という孫文が作り上げた国に変わっていました。なので、日本は台湾の行政権を中華民国に返還します。

しかし、世界大戦後の平和は束の間、その後中国大陸では「国民党」と「共産党」という二つの党派が対立し、内戦が起こります。そして、1949年に蒋介石率いる国民党は南の方へ移動し、多くの軍人、人民とともに台湾へ進出します。この時から、中国大陸には中華人民共和国と、台湾には一時引き上げてきて、台湾の支配を始めた中華民国が存在するという、複雑な政治構図が始まります。

ここで台湾語の話に戻ります。日本では中国語を勉強するというと、「北京語」という共通語を勉強することになっています。ここでいう「中国語」は、正確には中国語のうちの「北京語」です。なぜなら、中国大陸ではもともと各省でいろんな方言があり、「広東語」、「上海語」、「北京語」など、すべて異なる発音で、勉強しないと理解できないほど異なります。

台湾にいた漢民族は、先ほど紹介した通り、福建語から発展した「台湾語」をメインに話していましたが、1949年から蒋介石ら国民党が、中国の北方から台湾にやってきて統治を始めると、福建語のかわりに「北京語」を共通語として定めます。そして、台湾語は方言と見なされ、学校で話すと罰せられたため、台湾語を話せる人がどんどん減ってしまいます。

特に台北などの北部では、国民党らと中国大陸からやってきた人々(外からやってきたという意味で、「外省人」と呼びます)が多かったので、その子孫はもちろん台湾語は話せず、もともと本土にいる人々(「本省人」と呼びます)でも、台湾語を話せる人が少なくなりました。

例えば私は両親ともに本省人の家系で、両親や親族は台湾語で会話できますが、私は学校では共通語(北京語)しか使わないので、あまり台湾語が流暢ではありません。そして、大学で一回台湾語で友達と話してみると、他の外省人家系の友達から「面白い~不思議~」と言われてしまった記憶もあります。

台湾の南北差異

ようやくドラマ本編の話に戻ります。

台湾の南部・高雄では、陳威志という青年が登場しますが、彼は実家では「台湾語」でお母さん、お父さんと話しています。台北などの北部では外省人が多く、歴史的背景から台湾語を話す人が減りましたが、南部では比較的外省人が少なかったため、陳威志みたいに台湾語を話せる人が多いのではと思われます。

実際に台湾各地域の言語使用状況について、台湾教育部(日本の文部科学省にあたる)の本土言語に関するサイトを調べてみました。少し古いですが、2010年に台湾各地域の家庭内で使われる主要言語についての調査結果を見ると、下図の通り、緑色(北東、中南部)は台湾語が優位となっている地域となっています。なお、ピンク色は客家語、肌色は原住民族の言語、水色は北京語(台湾華語)がメインで使われる地域です。

出典:本土語言使用情況說明 – 本土語言資源網

台湾に残る日本語

さらに、台湾語は日本植民地時代を経て、日本語を取り入れた新しい単語もたくさん作られました。例えば、ドラマ内で陳威志の母親が、高鉄が出来ても、うちみたいな「あさぶる」な店に誰が来るのか、と話しています。この「あさぶる」は、なんと日本語の「朝風呂」から来ており、「メチャクチャだ」「訳分からない」という意味です。

語源は諸説ありますが、日本植民地時代に、朝風呂の習慣のない台湾人が、日本人の朝風呂を見て「理解できない」と思ったのか、農業社会で早起きしないといけないのに、呑気に風呂に入っている人を見て「メチャクチャだ」と思ったからだと言われています。他にも「頭コンクリ」(コンクリートのように固い)など、面白い台湾語のスラングが残っています。

ところで、張美青は実家では台湾語を話していますが、幼馴染女の子・張美青とは共通語(北京語)で会話をしています。やはり学校では、北も南もずっと北京語で勉強してきたので、学校の友達や職場の人とは北京語(台湾華語)で会話することに慣れています。私の友達も、南出身の子は親とは台湾語を話しますが、学校では主に北京語(台湾華語)で話しています。

このように台湾語を話す機会が減り、話せる人が減ってしまっている現状ですが、近年では台湾の文化を大事にしようという意識も芽生え、学校では台湾語や、さらに少数民族である原住民や、客家(ハッカ)人の言葉を教える動きも増えています。

出典:路~台湾エクスプレス~ | NHK 土曜ドラマ

実際に南の方へ遊びにいくと、街中やお店では台湾語で話す機会が多く、台湾の北部とは違う風土・景色を味わえます。南に行くと、言葉やグルメなど、よりディープな台湾を体感することができるので、もし観光に行く機会があれば、ぜひ高鉄を使って南へ足を伸ばしてみてください!

ロケ地・グルメ情報

最後に、第1話に出てきたグルメを紹介したいと思います。

詹記麻辣火鍋

春香が台湾に赴任した直後に、歓迎会で会社の同僚と食べに行った火鍋屋は、「詹記麻辣火鍋」という名店です。私も大学時代に、よく歓迎会や飲み会などで詹記を予約しようと思いましたが、人気店なので予約が取れないこともありました。

出典:路~台湾エクスプレス~ | NHK 土曜ドラマ

辛いスープと辛くないスープがある「二色鍋」を食べていますね。私は両方混ぜて飲むのが好きです。ちなみに、台湾で火鍋といえば、「麻辣鍋」という激辛スープのみの鍋と、「鴛鴦(おしどり)鍋」という二種類の出汁が選べる二色鍋があります。鴛鴦みたいに二色に分かれているから、この名が付きました。

老牌牛肉拉麵大王

春香がエリックと再会した牛肉麺屋さん「老牌牛肉拉麵大王」は、台北駅と西門駅の間にある有名店です。「城中市場」というローカルな市場の中にあり、大通りから小道に入ると、超ディープな世界に入ります。

出典:路~台灣Express~ 台日合製劇集場景一日遊(日本語cc字幕あり)|馬丁出去玩

牛肉麺が美味しくて有名ですが、近年は日本人観光客も増えてきた印象です。ちなみに、牛肉麺以外に、「炸醤拉麺」というジャージャー麺も美味しいので、これと牛肉スープを一緒に食べるのがおすすめです。

他にも美味しいお店が出てきましたが、こちらのYouTubeでは、日本語字幕付きで、詳しく紹介されています↓


今回は、台湾の歴史や文化の話で長くなってしまいました。。第2回では「湾生」の葉山勝一郎が、ついに台湾で旧友と再会しましたね。また日本植民地時代の話など、ご紹介できればと思います。

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