『モンガに散る』の感想:台湾の極道「角頭」と「幫派」

1986年、台北一の歓楽街・艋舺(モンガ)は、商業地区として繁栄する一方、多くの極道組織が縄張り争いを繰り広げる、抗争の絶えない街。

映画『モンガに散る』は、モンガで青春を謳歌していく主人公「モスキート」が、幼い頃から一目置かれる存在の「ドラゴン」、頭の切れる影のリーダー「モンク」、お調子者の「アペイ」、腕っ節の強い「白ザル」と義兄弟の契りを交わし、固い絆で結ばれていくストーリである。

5人の「兄弟」

この艋舺(モンガ)という地域は、日本人観光客にもお馴染みの龍山寺や蛇のスープなどを飲むことができる華西街夜市のエリアで、台湾人目線では「極道の街」という印象も強いようだ。

龍山寺

今回は、極道文化で知られる艋舺(モンガ)の歴史、台湾の極道についてを踏まえながら、映画『モンガに散る』を深堀りしていきたい。

極道文化で知られる艋舺(モンガ)の歴史

「艋舺(モンガ)」は現在の台北の西門から龍山寺周辺の地域で、台湾原住民平埔族ケタガラン族の「丸木舟」という言葉に由来する。これは山から切り出した木をこのエリアに流れる川を使って丸木舟で運んだからだそう。台湾語音では、「艋舺(バンカ)」という漢字があてられた。

艋舺清水巖(台北観光サイトより引用

ちなみに、ケタガラン族は最初に台北盆地に住み始めた台湾原住民と言われ、台湾総統府正面の大きな道路の名前にもなっている(凱達格蘭大道:ケタガランたいどう)。

凱達格蘭大道:ケタガランたいどう(wikipediaより引用

日本統治時代の1920年、台湾総督府による行政改編のなかで、台北に台北州が設置され、艋舺も表記が改変された。「バンカ」に発音が似た漢字のうち、「万年の繁栄」との願いを込めて萬華(バンカ)が選ばれた。但し、台湾語では旧称の「艋舺」が現在でも使用されている。

18世紀、清朝の時代には、当時発展していた台湾の都市を「一府二鹿三艋舺」と呼んでいたようだ。「一府」は当時の首都であった台南、「二鹿」は鹿港(台中の下の彰化県)、「三艋舺」は艋舺と、三つの港街をそれぞれ指している。

この「一府二鹿三艋舺」という言葉が象徴する通り、艋舺は栄え、街には人が増えていった。但し、当時は出身地による同郷意識が強く、中国大陸・福建省内のどの地域から来たかによる縄張り争いが進んだ結果、艋舺で極道が台頭していったようだ。

台湾の極道「角頭」と「幫派」

映画『モンガに散る』の中で、その地域を牛耳っている極道のことを「角頭(かくがしら)」と呼んでいる。

この「角頭」というのは、経済的に発達した特定の地域(港や駅、お寺など)を牛耳る本省人系の極道に使われる言葉のようだ(本省人と外省人についてはこちらを参照:NHK土曜ドラマ『路~台湾エクスプレス~』第1話:台湾の歴史や言語について)。

本省人系の極道「角頭」

「角頭」は不良やチンピラが多く、明確な組織体系があまりないとのこと。積極的に外のエリアを開拓していく意思はなく、自分たちの地盤を守ることに主眼を置いている。そのため、「角頭」が占領する地域が経済的に没落していくと、自動的にその「角頭」も没落していくことが多い。

また、「角頭」の組織名には占領している地域と深い関わりがあるものが多い。例えば、萬華には「芳明館」という角頭がいるようだが、これは日本植民地時代にこの地域に建てられた「芳明館戯院」という劇場の名前に由来している。

一方、台湾全土で活動する組織体制が整った外省人系の極道は「幫派」と呼ばれている。日本でいう「〇〇組」と似たようなイメージだろうか。極道という裏社会(中国語では黒道)においても、本省人と外省人の違いがあるのは、日本人の感覚からするとおもしろい。

外省人系の極道「幫派」

映画『モンガに散る』の中でも、地元色が強く、組織としてあまり統率がとれていない本省人系の「角頭」と、スーツを着ていて近代的な雰囲気のある、組織統率がとれた外省人系の「幫派」の違いが分かりやすく描かれている。

特に、外省人系の極道とモスキートたちが対面した際に、外省人系の極道の下っ端はリーダーの「ウルフ」にお酒を注いだり、たばこに火をつけたりとサラリーマン力が高い一方、モスキートたちは、それにただただ感服するだけというシーンは印象的だ。

外省人系の極道「幫派」の下っ端がたばこに火をつけるシーン

『モンガに散る』に込められた隠喩

上述したように、本省人系の「角頭」は自分たちの地盤を守ることに主眼を置いている。そのため、映画『モンガに散る』においても、本省人系の「角頭」である「廟口」と「後壁厝」の2つの極道は、もめごとがありつつも、お互いの縄張りを侵略しない間は、平和を保っていた。しかし、そこに外省人系の「ウルフ」が侵略してきたことにより、この2つの「角頭」は没落していくこととなる。

この流れは、まさに国民党(外省人政権)が台湾人(本省人)を迫害していた台湾の歴史を隠喩している。そして、外省派は利益重視である一方、本省派は人との繋がりを大事にしているものの、そのような人と人との絆が、冷たい資本主義に敗れていく姿を象徴しているようだ。

また、『モンガに散る』において、主人公「モスキート」は桜や富士山など日本的なものに憧れを抱き、自身の父親が日本から送った手紙を大切に飾っている。「モスキート」はなぜこのように桜や富士山など日本的なものを愛していたのだろうか。

一番やりたい事を聞かれ「日本で桜の花を見る」と答えるモスキート

台湾では、国民党政権による白色テロや戒厳令など外省政権批判がなされる時には、しばしばその前の時代の日本統治時代が持ち合いに出されるようだ。

本省系の「角頭」と外省系の「幫派」の対立の中、日本的な要素が散りばめられているこの映画の構図は、台湾における国民党の戒厳令時代と日本の植民地時代を比較する構図に似ている。

但し、日本に憧れを持っていた「モスキート」の実の父親が、親のように慕っていた「ゲタ」を殺した張本人である外省系の極道「ウルフ」であったことはなんとも皮肉な話だ。

桜が舞うシーン

Q&A

R to Y:今シーズンで一番好きな日本ドラマのキャラは誰ですか?⇒『私の家政夫ナギサさん』の「相原メイ」かな、辛い時も文句言わず頑張る姿勢が素敵。『ハケンの品格』の「大前春子」は迫力ありすぎてタジタジになりそう。

Y to R:今期おすすめのドラマは?


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