台湾ドラマ『天橋上的魔術師』(歩道橋の魔術師)は、台湾国内や海外で評価されている名作家・呉明益氏の原作小説に基づく作品で、80年代の台北にあった複合施設「中華商場」を舞台に、三世代の家族愛、愛情、友情を描いています。
もともと台湾国内のテレビ局公視とNetflixでしか視聴できなかったですが、海外在住台湾人から多くのリクエストを受けたため、公視がオンデマンド配信サイト「公視+」で海外からの購入、視聴を期間限定でオープンしてくれました。今年一番期待していたドラマなのでとっても嬉しい!
(130元全10話、購入は2021年4月末まで、視聴期間は3ヶ月)
早速10話まで見てみたら、家族愛、友情、愛情などのヒューマンドラマにとどまらず、80年代の台湾の時代背景(白色テロ、原住民への差別、LGBTへの理解不足など)の暗喩や、台湾語・中国語のスラング、言葉遊びも多用されているため、日本で展開する場合、翻訳も解説も難しそうだと感じました。台湾人の私も作中のメタファーをすべて理解しきれなかったので、2回目の視聴をする予定です。
日本で放送されるか分かりませんが、感動ポイントが多くあったので、ネタバレ無しで紹介したいと思います。
『歩道橋の魔術師』ドラマのあらすじ
1980年代の台北、西門の近くにあった複合施設「中華商場」に、ある日謎めいた魔術師がやってくる。それと同時に、「99階」にまつわる噂も広まっていく。
魔術師と出会ったことで、中華商場で働き暮らす子供たち、青少年たち、大人たちが、改めて家族愛、友情、愛情、人生の夢、失ったものを考え始め、それぞれ愛する人との出会いや別れ、思春期の困惑、家族関係の再構築を経験する。
『歩道橋の魔術師』登場人物 / キャスト
※画像は公式Facebook「天橋上的魔術師 公視影集」より引用
魔術師 / 演:莊凱勛(ジュアン・カイシュン)
中華商場の歩道橋でマジックを行う謎の魔術師。中華商場で暮らす人々の喜怒哀楽をすべて目の当たりにする。
いつも薄汚いジャケットや軍靴を着用し、神もボサボサで浮浪人のような恰好をしているが、彼のマジックは本物の魔術のようで人々を魅了する。よく鉄のリングや動く黒い小人の手品を披露する。
發記革靴屋‐陳家
【次男】小不點(=おチビちゃん、本名 陳明勝)/ 演:李奕樵
【長男】Nori(本名 陳明憲)/ 演:初孟軒
【母】美枝子(點媽=おチビちゃんママ)/ 演:孫淑媚
【父】點爸(おチビちゃんパパ)/ 演:Fire EX. 滅火器 ボーカル 楊大正
本省人家庭、中華商場の開業と同時に革靴屋を開く。収入は頗るよく、中華商場の三階に居住用の部屋も購入している。
長男Noriは台湾の難関名門高校「建国中学」の優等生で、ラグビー部のキャプテンも務める。次男の小不點(おチビちゃん)は西門小学校に通い、両親が兄ばかり可愛がるのに不満を持ちつつ、兄を尊敬している。好奇心がいっぱいでいたずらっぽく、口達者で商売上手。
母親は中華商場でも気性が荒いことで有名。一方父親は四六時中お酒を飲んでアコーディオンを弾いており、家族のことにあまり口出ししない。
唐さん / 演:袁富華
香港人、中華商場3階の端っこで高級スーツ仕立て屋を営む。
お店は閉まっていることが多いが、中にはレコードプレーヤーや英語書籍、西洋カトラリーが配置され、高級な空間を醸し出す。よく店内の猫と会話をしている。
鍵屋‐謝家
【次男】阿蓋(アーガイ、本名 謝季恩)/ 演:羅謙紹
【長男】阿派(アーパイ、本名 謝派恩)/ 演:朱軒洋
【母】蓋媽(蓋ママ)/ 演:黃舒湄
【母】蓋爸(蓋パパ)/ 演:溫吉興
客家人。両親ともに急性灰白髄炎(ポリオ)のため足が不自由。父は鍵屋を営み、母はデニム修理でお金を稼いでいる。お金持ちではないが心優しい。
次男の阿蓋は小不點(おチビちゃん)と同級生かつ大親友。長男の阿派は「中国海專」(80年代に大人数の喧嘩事件を起こしたという。 現 台北海洋科技大学)の学生。イケメンでかっこつけるのが好きだが、家族や友人に優しい。
名家楽器屋‐王家
【次男】阿卡(本名 王立業)/ 演:曾郁恒
【長男】阿澤(本名 王立澤)/ 演:宋柏緯
【父】澤爸(澤パパ)/ 演:四分衛 Quarterback ボーカル 阿山(陳如山)
裕福な本省人家庭。父は楽器屋を営む。家族全員アート好きで、楽器に詳しく、一家揃って演奏するのが趣味。
次男の阿卡は小不點(おチビちゃん)と阿蓋と同級生で、仲良し三人組。長男の阿澤はギターがうまい文芸青年。
日本のアイドル 奈保子 / 演:温貞菱
中華商場の大型看板に登場する有名な日本人アイドル歌手。モデルになったのは80年代に日本で人気だった河合奈保子といわれる。
阿猴(本名 侯立誠)/ 演:羅士齊
原住民、家計を支えるため台北で出稼ぎ、中華商場の学生服の仕立て屋で働く。純粋な性格で、歌もギターもうまい。ただし、教育をあまり受けていないことにコンプレックスを持つ。阿派とは仲がよい。
文興書店‐柴家
【長女】柴文珮(大珮)/ 演:林潔宜
【長男】柴心珮(小珮)/ 演:林傑旻
【母】珮媽(珮ママ)/ 演:方意如
【父】珮爸(珮パパ)/ 演:劉士民
父は国共内戦後の1949年以降に台湾にやってきた知識人。中国の西南聯合大学に通っていたという。母は客家人で、謝家の母(蓋媽)の妹。夫婦で古本屋を営みつつ、こっそり自由思想を伝播する手助けをする。
大珮と小珮は双子の姉妹で、姉は外向的で明るく、妹は内向的で恥ずかしがり屋。ただ二人とも従兄弟の阿蓋をからかうのが好き。
先生 / 演:萬芳
西門小学校の教師で、小不點(おチビちゃん)たちの担任。国の規律を律儀に守り、よく子供たちに体罰を行う。引き出しの中には、いろんな秘密が隠されているらしい。
中華商場の不良グループ
【兄】黃龍 / 演:巫建和
【妹】黃小平 / 演:王渝屏
写真の手前にいるのが黄家兄妹。妹の黃小平は一時期Noriと付き合っていたが、振られてしまう。
兄の黃龍は妹のためにかたき討ちしようとするが、ある悲劇を起こしてしまう。
光明眼鏡屋‐馬家
【父】土匪 / 演:趙正平
【娘】小蘭(本名 馬湘蘭)/ 演:盧以恩
中華商場唯一の眼鏡屋さんを経営。商売も繁盛し、唯一自動ドアを設置しているお店である。
父の土匪は若い頃ギャングのメンバーだったといわれ、子供たちに恐れられている。
娘の小蘭は名門高校と国立大学(ロケ地を見ると台湾大学に似ている?)に通う優等生。率直で勇敢な性格。
廟「天霊通」‐歐家
【父】天霊通 / 演:李明哲
【次女】特莉莎(=テレサ、本名 歐幼婷)/ 演:偉莉莎
父・天霊通は謎に満ちた外省人。占いやお祓いなどで生計を立て、中華商場の人々はよく宝くじの予測や悩みで彼の助けをもとめる。
母は中国東北とロシア近辺の出身だそうで、2人の娘は色白で美人な遺伝子を受け継ぐ。
姉のモナリザは成人するとすぐ家を離れる。妹のテレサは厭世的で同級生にもそっけない。
馬頭特務(エージェント)/ 演:鄭有傑
白色テロ時代下の特務機関のエージェント。中華商場の人々を一人残らず観察、把握している。高級カメラを常に携帯している。
『歩道橋の魔術師』の見どころ
ノスタルジー溢れる80年代の台北
このドラマは80年代の中華商場を舞台にしていますが、中華商場は1992年に取り壊されています。そこでドラマ制作部隊は、台湾ドラマ史上最大級のドラマオープンセットを建設し、80年代の中華商場を再現したのです。なんとセットの建設費は8,000万台湾元(約2億9,400万円)、製作費は2億元(約7億3,600万円)もかかったといいます。
※参考:台湾ドラマ「歩道橋の魔術師」、韓国の特殊効果チームが参加=20日放送開始 | 中央社フォーカス台湾
私は中華商場を実際に見たことがないですが、色褪せた看板、剥げているペンキやコンクリートなどの光景と昔の音楽にノスタルジーを掻き立てられました。(今風にいうと「エモい!」)もともと外部向けに撮影セットを一次公開していましたが、新型コロナのせいで見に行けなかったのが本当に残念です。
少年少女だったあの頃にタイムススリップ
ドラマには親・青少年・子供の三つの世代が登場しますが、物語の主軸となるのは西門小学校に通う小学生たちと、高校生である兄たち。主人公の小不點(おチビちゃん)ら仲良し三人組からは、小学生だった頃の純粋無垢な思い出とお茶目でわんぱくだった幼少期を、高校生の少年少女からは、甘酸っぱい初恋や将来や自分探しで不安だった思春期を想起させられます。
また、家族や恋人、友人との出会いや別れ、決裂や和解などを通して、改めて「親子愛とは?」「友情とは?」「愛情とは?」についても考えさせられます。
台湾の暗い過去からの進歩を実感
ドラマの根底には、80年代の台湾の社会背景がBGMのように鳴り響き、真正面から描いていないものの、多くのメタファーからは「白色テロ」「LGBTへの差別」「原住民への差別」で引き起こされた事件や犠牲者を連想できます。
80年代から40年経った今、台湾では当たり前のように言論の自由を享受し、原住民の言葉を守る活動や生活・進学を保証する動きがあったり、アジア初の同性婚が認められた国となっている。ただ、今の台湾があるのは、多くの先人たちの努力と犠牲があってこその結果だと、このドラマを見て改めて実感できます。
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