『青春弑恋』色欲や愛など若者の欲求と苦悩が連鎖する台湾映画

青春弑恋』(原題:青春弒戀、英語題名:MamaTerrorizers)は、2021年11月に台湾で上映された台湾映画。台北駅で起きた無差別殺人事件を中心に、複数の若者が抱える欲求と苦悩が交差していく話を描く

日本でも2023年3月から劇場で公開され、有難いことに鑑賞券抽選キャンペーンで当選し、シネマート新宿で鑑賞させていただいた。

チケットや予告を見て、かなり犯罪要素が強く怖い内容かなと想像していましたが、結果犯罪サスペンスやホラー映画のようなグロい残酷なシーンは無かった。

そのかわり、若者たちが抱える悶々とした苦悩と、それが以下に無差別殺人事件に繋がったのかに重きを置いており、エドワード・ヤン監督『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』に通じる経脈を感じた。

この映画に出演する林哲熹(リン・ジェーシー)が登場する映画『マネーボーイズ(今年男孩)』のポスターもあったが、これも気になる作品だ。

『青春弑恋』のあらすじ

オタクの大学生・明亮(ミンリャン)は、かつてアダルト系のライブ配信をしていたインフルセンサー・モニカに夢中になる。孤独を感じる玉芳(ユーファン)は舞台劇女優業に没頭し、新人女優のモニカと親しくなる。

日本文化が好きな女子高生の綺綺(キキ)は、コスプレをしてミンリャンの気を引こうとする。長い航海から帰国した料理人の小張(シャオジャン)は、カフェでバイトをする玉芳(ユーファン)が気になる。

やがて4人の若者のそれぞれの欲望、思惑が交差していき、惨劇が起きてしまう……。

▼予告

『青春弑恋』感想—Z世代の青春と苦悩

↓↓以下ネタバレにご注意ください↓↓

若者たちが抱える苦悩がそれぞれ交差し、思わぬ殺人へ繋がっていく……。そんな構成から、エドワード・ヤン監督の名作映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を思い出さずにはいられなかった。

『牯嶺街少年殺人事件』で少年少女たちが抱えた苦悩は、「男女間に芽生える愛情と嫉妬」という思春期の感情と、「戦後の戒厳令時代、白色テロ、外省人としてのアイデンティティ」という大時代の課題に対する焦燥感があったのではと思う。

そういえば、2020年に映画『牯嶺街少年殺人事件』をはじめて真面目に全編通してみて、その得体の知れない焦燥感と恐怖がとても印象的で、夫と感想や考察記事を沢山書いた。

それはさておき、今回の『青春弑恋』は、比較的自分の世代に近いので、作中の若者たちが経験する「テレビゲーム、オンラインでの交友関係、コスプレ」などの時代背景とそこから派生する問題はとてもイメージできる。

そのうえで、『牯嶺街少年殺人事件』から世代が変わっても、若い男女の間には同じように「欲望、性欲、愛情、憎悪、嫉妬」などの感情が蠢いており、それが引き起こす悲劇も繰り返されるんだなと改めて思った。

【色欲】郭明亮(ミンリャン)/ 演:林柏宏(リン・ボーホン)

オンラインゲームが生活の9割を占め、学校にも行かず人とのコミュニケーションも円滑に取れていないイメージのミンリャンは、父親の友人の家になぜか住んでおり、夜な夜なマウンテンバイクで台北の街中を徘徊する。

さらには、ネットの掲示板で見つけたセクシーなインフルエンサーの18禁動画に夢中になり、その女性が自分の彼女だという幻想を抱き始め、そこから殺人未遂の悲劇に繋がっていく。

彼が抱いている欲望は「欲望」「性欲」で、その捌け口がおかしな方向に向かってしまったのだろう。

林柏宏(リン・ボーホン)は爽やかな男子という役を比較的見てきたので、今回の役で彼の新たな一面を見つけ、むしろ怖く感じた。なお、一緒に見た夫が映画館を出て最初に言った感想は「引きこもりがこんなムキムキなことある」。確かに身体能力が抜群すぎて、マウンテンバイクの訓練こんなに効くんだと思った(笑)

【孤独】陳玉芳(ユーファン)/ 演:李沐(ムーン・リー)

両親は離婚し、政治家の父親は職場のアシスタントと再婚することになる。また家には父親の友人の息子である明亮(ミンリャン)も居候しているが、あまり口も聞かない関係。そんな玉芳(ユーファン)は明らかに孤独感を感じており、「自分が愛する人はいつも自分から離れていく」と疎外感を感じていた。

映画の冒頭では、そんな孤独な彼女にも春が訪れ、小張(シャオジャン)という大切な男性が登場する話から始まるが、映画が進むにつれて、実は彼女は小張(シャオジャン)と出会う前にモニカと深い仲になっており、裏切られたと思った反動から小張(シャオジャン)を求めていたのではということが分かる。この事実を分かりにくくする時系列はかなり考え抜かれていたものだろうと思った。

【名声】モニカ / 演:陳庭妮(アニー・チェン)

モニカに関しては、ブランド品や高級マンションに住みたい金銭欲も感じられるが、最後に彼女が一番抱いていたのは「本物の女優として、実力を認めてほしい」「本物の有名な女優になりたい」という名声に対する欲望なのではと思った。

玉芳(ユーファン)と同じ劇団で出会い、金持ちの彼氏と別れたことでお金も足りず、住んでいた高級マンションからも出ないといけない中、玉芳(ユーファン)に認められて深い関係に陥っていく。

しかし、彼女は過去にアダルト系動画を撮影し、ネットにアップロードして人気を博していた過去があり、明亮(ミンリャン)も彼女に夢中になったファンの1人である。

そんな過去を振り切ろうと頑張るものの、最終的にはまた同じ繰り返しで、金持ちの男に騙されて海外についていき、利用されないかが心配だが、彼女はそれほど有名な女優になりたい、もしくはもっとお金が欲しいという金銭欲がやはり根底にあったのだろうか。

【家族】小張(シャオジャン)/ 演:林哲熹(リン・ジェーシー)

小張(シャオジャン)は本作で申し分なく素敵な人で、一番被害者として可哀そうな人だなと思う。彼はユーモアもあり優しく、乗船して料理人を務めていたが、安定した仕事について自分の家庭も持ちたいという願いから、陸地に戻って自分のお店を持つことを夢に努力する。

そんな彼は、以前から気になっていた玉芳(ユーファン)と再会し、熱烈なアプローチでようやく結ばれるかと思いきや、玉芳(ユーファン)が台北駅で明亮(ミンリャン)に刺されそうになるのをかばって負傷し、さらには玉芳(ユーファン)のスキャンダルも知ってしまう。

正直、私としては小張(シャオジャン)には全くの非はなく、彼が抱いている「家族を作りたい」「お店を開きたい」という夢も、度が過ぎる欲望ではないので、彼は完全にとばっちりを受けた被害者だなと感じている。あと、玉芳(ユーファン)も台北駅で小張(シャオジャン)を待っているときに、ヘッドフォンをつけていなければ刺されなかったのにとも思う。

この映画に出演した林哲熹(リン・ジェーシー)はめちゃくちゃムキムキになっていて、性格も良くて完璧すぎると思ってしまった。

【恋愛】綺綺(キキ)/ 演:姚愛寗(ヤオ・アイニン)

日本のサブカルが好きで、有名なコスプレイヤーになることを夢見る女子高生。かなりませており、自分に好意を寄せる男子の行為を利用することに慣れており、明亮(ミンリャン)にも気がありキスまで体験したいと思ったものの、明亮(ミンリャン)をその気にさせてしまい襲われそうになってしまう。

彼女は女を武器として使うことに慣れすぎるが、その終点に何が待ち受けているのか明確に想像したことがなく、そこが甘かったのかなと思う。

ちなみに小張(シャオジャン)は彼女の実家が営む食堂で働いており、そこがさらに事件をややこしくしてしまっている。

姚愛寗(ヤオ・アイニン)は本当に可愛くて、このあざとくイラっとさせる女子高生役もうまく演じられたのかなと思った。

【親子】蕭姐(シャオ)/ 演:丁寧(ディン・ニン)

マッサージ屋の女性。性的なサービスも提供していると見られる。夫が離れていき、息子もお金を無心しに来るだけなので、その悲しさから日々お酒に酔いしれる。

酔っぱらって倒れているところを明亮(ミンリャン)に助けられ、それを機に明亮(ミンリャン)を大人の世界へ誘っていく。明亮(ミンリャン)の性欲がうまくここで消化できるかと思いきや、むしろ変な自信をつけさせてしまい、モニカのストーカーになったり、玉芳(ユーファン)を武士刀で刺そうとする勇気づけとなってしまった。

映画の最後に、玉芳(ユーファン)が台湾鉄道の駅で、てっきり小張(シャオジャン)にも見捨てられたかと思ったら、小張(シャオジャン)が駅までやってきて会いに来たシーンがある。

その後映画は終了し、二人が実際に会って何を話したのか、小張(シャオジャン)はどういう感情だったのかは分からないが、ただただ列車の風景と音で構成されていたのが印象的だった。

特に台湾鉄道の列車が到着し、扉が開いてまた閉じ、その間にブザー音や放送も流れるような音は、すべて私が学生時代に聞きなれている台湾鉄道の音なのでとても懐かしい。

二人の今後がどこに向かっていくのかは、列車の音を聞きながら視聴者に想像を委ねられたのだろう。

※ヘッダー画像は公式Facebook「青春弒戀 Terrorizers」より


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