なぜ新型コロナウイルス感染症による死亡率は国によって大きく違うのか?(後編)

新型コロナウイルスによる死亡率が国によって違う要因

「なぜ新型コロナウイルス感染症による死亡率は国によって大きく違うのか?(前編)」では、新型コロナウイルスによる死亡率が国によって大きく違う理由について、考えられる要因をチャートを用いて分析した。国によって新型コロナウイルスの死亡率が異なる理由について、視覚的には以下の順番で相関が高そうにみえるという結果となった。

  • BCGワクチン接種の有無
  • エリアによって流行している新型コロナウイルスの種類が違う
  • 高齢化率
  • 医療崩壊が起きているか否か
  • 病院の病床数・ICUの病床数
  • 気温

「なぜ新型コロナウイルス感染症による死亡率は国によって大きく違うのか?(後編)」では、上記の要因が、実際に新型コロナウイルスの死亡率の違いに影響を与えているかどうか、また、どの程度影響を与えているかについて、統計学の手法を用いて分析していきたいと思う。

各要因はどの程度新型コロナウイルスの死亡率の違いを説明できるのか?

まず、各要因がどの程度各国の死亡率の違いを説明できているかを見ていこう。各要因を用いて死亡率を推計しようとしたとき、その予測が実際にどの程度当てはまっているかを表すのが「決定係数」と呼ばれるものになる。この決定係数は0~1の間の数値となり、大きいほど予測精度が高い。下のグラフが各要因を説明変数としたときの決定係数になる。

出所:各種データより筆者推計

決定係数をみると、BCGワクチンを接種しているかどうかが各国の死亡率の違いを一番説明できているといえる。ヨーロッパなのか、北南米なのかのエリア要素の説明力も高い。一方で、病院の病床数や平均気温といった要因は死亡率をほとんど説明できていない。

また、決定係数が0~1であることを踏まえると、一番説明力の高いBCGワクチン接種においても0.2弱となっており、各国の死亡率はその国の対策や文化など、モデルでは説明できない部分の影響が大きいことも分かる。

各要因は本当に新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えているのか?

次に、各要因が本当に新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えているのかを見てみよう。

これを検証していくために、「t検定」という方法を用いる。この検定の詳細な説明は省略するが、仮に「BCGワクチン接種が新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えない」と仮定した場合に、1%以下でしか起こりえない現象がデータから観察されるのであれば、それは「BCGワクチン接種が新型コロナウイルスの死亡率に影響を与える」と考えた方が自然だろうという検定方法だ。この時、「有意水準1%で有意」といったりする。この%(有意水準)が低ければ低いほど、各要因が実際に新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えている可能性が高いと判断する。以下が各要因の検定結果である。

出所:各種データより筆者推計

検定結果をみるとBCGワクチン接種は高い確率で新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えていそうだということが分かる。その他では、ヨーロッパや北南米といったエリア要素、各国の高齢化率、人口当たりの感染者数も影響を与えていそうだ。一方、各国の病院の病床数や3月の平均気温が影響を与えているという結論は得られなかった。

ただ、実際にはこれだけでは不十分で、正確には他の要因もコントロールして検証する必要がある。どういうことかというと、例えばBCGワクチンを接種していない国をみると、ほとんどが欧米の先進国のため、BCGワクチンを接種していない国とヨーロッパというエリア要素、または高齢化率といった要因は相関が高いと考えられる。このため、「ヨーロッパ」というエリア要素が有意でも、実はこの背後にある「BCGワクチン接種」という要素が新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えている可能性もあるからだ。そのため、これらの要素を同じモデルにいれても各要因がなお有意かを判断する必要がある。


出所:The BCG World Atlas: A Database of Global BCG Vaccination Policies and Practices

今回は、それぞれの分析で有意であった、「BCGワクチン接種」、「エリア(ヨーロッパ、北南米)」、「高齢化率」、「感染者数/人口」を同じモデルにいれて分析してみよう。

出所:各種データより筆者推計

結果を見ると、BCGワクチン接種はやはり死亡率に影響を与えていそうだということが分かる。また、ヨーロッパや北南米といったエリア要素は有意水準が10%のため判断が難しい。高齢化率や人口に対する感染者数はBCGワクチン接種などの要因をコントロールすると必ずしも死亡率に影響を与えているとは言えないという結果となった。

今回はサンプル数が126か国と少ないため、かなりはっきりとした影響が出ないと有意とはならないが、それでもBCGワクチンやエリア要素は死亡率の違いに影響を与えていそうである。

各要因はどの程度新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えているのか?

検定の結果、「BCGワクチン接種」と「エリア(ヨーロッパ、北南米)」の2つは各国の新型コロナウイルスの死亡率の違いに影響を与えていそうなことが分かった。最後はこれら2つの要素がどの程度死亡率に影響を与えていそうかをみてみよう。以下がその推計になるが、こちらはあくまで4月上旬時点でのデータを用いた推計であるため、先行きの死亡率を予測するものではない点にはご留意いただきたい。

出所:各種データより筆者推計

上記をみると、BCGワクチンを接種している国とBCGワクチンを接種していない国では死亡率に5%以上の違いがあることが分かる。一方、過去にBCGワクチンを接種していたが現在は接種していない国の死亡率は、現在も接種している国と過去も接種していない国のちょうど真ん中程度に位置している。

また、BCGワクチン接種の有無を考慮した後も、ヨーロッパや北南米の死亡率はアジア・中東などその他のエリアと比較して1%以上高いことも分かる。この要因としては、最近よくニュースで見かける欧米とアジアでは流行っているコロナウイルスの種類が違う可能性が考えられる他、文化などの違いによる可能性もある。

最後に

以上、新型コロナウイルスの死亡率に影響を与える要因について分析した。結果として、BCGワクチンの接種は死亡率に影響を与えている可能性が高い他、ヨーロッパや北南米の死亡率がその他の地域と比較して高いことも分かった。

但し、これはあくまで4月上旬時点でのデータを用いた推計である点にはご留意いただきたい。日本では新型コロナウイルスの感染者数が日々急増しており、先行き予断を許さないことは明確である。


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