「城隍」とは?「土地公」との違いは?台湾道教における土地の守護神

最近見ているNetflixの台湾ドラマ『天巡者』と『返校』には「城隍」(「城隍爺」とも呼ぶ)という道教系の神様が登場する。「城隍」は台湾人なら誰でも一度は聞いたことがある有名な神様だが、意外に何の神様なのか、名前の由来も知らない人が多いので、深掘りしてみた。

城隍とは?名前の由来

城隍信仰」は古代中国のお城の城壁や堀に対する自然崇拝から始まる。「」は「城壁」、「」は「水のない堀」で、城を守る物だったものが城を守る神様に変わっていった。その後、城や領土を守るだけでなく、「国家安泰」「雨乞い」「無事息災」「勧善懲悪」などの役割と、冥界の管理もするようになり、「人間界と冥府、陰陽両界を支配する神」として定着していった。

城隍は自然界の物に対する信仰から始まったので、悪霊退治の神様「鍾馗」のように実在した人物が神格化された神様とは異なる。また、「城隍=特定の一柱の神様」というわけではなく、各地域にそれぞれの城隍がいて、各担当地域を守っている。現代の日本社会で例えると、「知事」「県長」「市長」のような役職に近い。しかも任期付きで、中華圏の民間信仰・道教での最高神「玉皇大帝」がその人事を司っているのだ。

なお、各地域でご当地の「城隍」がいて、城隍を祀る廟所である「城隍廟」が増えてくると、その地域の有名な人物・英雄が城隍として祀られる風習も現れたという。

台北中正区、総統府近くにある「臺灣省城隍廟」(Wikipedia「臺灣省城隍廟」より)

城隍信仰の歴史

中国の戦国時代(紀元前475年~221年頃)の書物『禮記・禮運篇』には以下の記述があり、古代では皇帝だけがお城の守護神(=城隍)を祀ることができ、一般人は拝むことができなかったことが分かる。この頃の城隍は、お城や国・領地を守る土地の守護神としての役割が主だった。

天子大腊八,水庸居第七
※意味:天子(皇帝)は毎年年末の時期に八柱の神様に奉納し、そのうち七番目の神様は「水庸」(=城隍)である。

『禮記・禮運篇』

戦国時代では、城隍は自然信仰だったため、神像や廟所はなく、土壇(土で築いた壇)を祀っていただけだった。三国時代になると、道教や民間信仰の要素も加わり、城隍の神像や「城隍廟」を建てて祀るようになった。現在確認できる最古の城隍廟は、西暦239年に三国時代の呉国で建てられたという。

その後、唐朝(618年~907年)、宋朝(960年~1279年)になると、城隍信仰はますます普及し、中国各地で城隍廟が建てられた。また、宋朝では国家行事として祀られるようになり、当時の祭文には「晴れ・雨乞い」「災害を鎮め、福を呼ぶ」などの記録があった。この頃から、人間界(陽界)の守護神としての管轄範囲が広がっただけでなく、冥界(陰界)の司法官としての役割も担い始めている。

明朝(1368年~1644年)では、皇帝・太祖朱元璋の城隍に対する信仰が特に篤く、中央から地方政府まで城隍廟を建立し、都の城隍を最上位の「都城隍」とし、その下は府・州・県の順に「府城隍」、「州城隍」、「縣(県)城隍」の位階を決め、それぞれ異なる称号を与えた。

清朝(1636年~1912年)でも城隍信仰は盛んで、国家行事としての祭事もあり、各府・州・県の官僚が赴任する際もまずは城隍に参詣する必要があったという。

台湾澎湖県の城隍廟で祀られる城隍爺(Wikipedia「媽宮城隍廟」より)

城隍の職務一覧

改めて城隍が何の役割を担っているのかを整理しよう。

土地・都市(人間界)の守護神

もともとお城を守る城壁と堀だったので、当然ながら、その土地や居住する人々を守る役割を担う。城隍信仰の発展初期であった戦国時代と三国時代では、戦争が多発し、人々の安全が脅かされていたので、「郷土や人民を守る守護神」として拝められた。

冥界の司法官

唐朝になると平和な世の中が訪れたので、城隍は土地を守るだけでなく、人々の生死、管轄範囲内のあらゆる出来事を管理し、勧善懲悪も担当するようになった。「冥界の司法官・行政官」として人間界で処罰できない悪人を罰したり、善人を守る神様となったのだ。

具体的には、城隍は人間界(陽界)と冥界(陰界)の二つの世界を視察し、悪さをした人を処罰している。処罰の内容として、病気・貧困をもたらしたり、時には人間の命を奪うことさえできる。そのため、古代中国では、知事や県長などが新しく赴任したら、まずはその地域の城隍に参詣する必要があったり、容疑者が罪を認めない場合も城隍の手を借りることがあったという。現代でも、債権問題など、人間界の司法官、警察官が解決できない事件がある場合、城隍に助けを求めると良いとされている。

また、城隍は人間の現生での行いを記録し、死後は審判を行い、善悪に応じて転生か、地獄に落ちるかを決めており、勧善懲悪の神様として人間界を監督している。

もちろん、悪を懲らしめる以外にも、善良な人々を奨励して守り、警察のように世の中の平和や秩序を保ち、幸福をもたらす業務も行っている。そのため、健康、安全、事業成功など、人生をより良くしたい時にお参りすることが多い。

城隍と土地公の違い

土地を守る神様といえば、中華圏の道教や民間信仰では「土地公」(「福德正神」とも呼ぶ)という神様もいるが、土地公と城隍の違いは以下となる。

階級、管轄範囲の違い

先ほど明朝になると、中央(都)と地方政府(府・州・県)の行政地区に応じて、最上位の「都城隍」から順に「府城隍」、「州城隍」、「縣城隍」の位階が決められたと説明したが、県以下のエリアを守る神様=土地公だ。現代風に例えると、「城隍=知事、県長」、「土地公=村長」の違いがある。また、「城隍」は道教の神様界でも、中央政権が各地域に派遣する官僚だが、「土地公」は村・集落の自治体が投票などで決められるという。

職務権限の違い

城隍は冥界の司法官でもあり、よりパワーを持っているので、多数の神様を部下として携え、人間界で悪事を働いた人間がいれば、すぐ部下を出動させて捕まえ、城隍廟で罪状を審判することができる。凶悪な悪人に対しては、命を奪うことさえできると言われている。

一方、土地公は自治体の行政官なので、人間界で誰が悪事を働き、善良な行いをしたのか、妖怪悪霊が出現したか、農作物や天候、出生や死亡の記録など、ありとあらゆる事象を記録する役割を担う。ただ、城隍のような職権を持っていないので、記録して上層部に報告するだけで、悪人を懲らしめたるする権限は持っていない。

台中の水景福隆宮で祀られる土地公(Wikipedia「土地公」より)

ちなみに、台湾ドラマ『天巡者』では、土地公が愛くるしいおじいちゃんの恰好で、ドラマ内の城隍の部下として登場する。城隍のように悪を懲らしめ、人間を裁判にかけることがないため、土地公は台湾では「優しい地元のおじいちゃん」というイメージで親しまれている。(階級は城隍や鍾馗より下で、見た目だけがおじいちゃんなので、「老人」と呼ばれて怒っているシーンが可愛らしい。笑)

▼ドラマ『天巡者』第8話に登場する土地公(公式動画01:12より)

まとめ、参考資料

城隍や台湾道教の神々について調べると、神の世界でも人間界のように中央・地方政府があったり、司法体系があったりし、神様も人間味あふれているので面白い。台北の観光地「迪化街」には有名な「台北霞海城隍廟」があるので、台湾渡航できるようになったらぜひ城隍廟へ参拝しにいきたいものだ。

※参考資料(中国語、台湾華語のみ)


ブログの更新情報をメールでお知らせします。
ぜひご登録ください!


 

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2020
最新情報をチェックしよう!