なぜ新型コロナウイルス感染症による死亡率は国によって大きく違うのか?(前編)

新型コロナウイルスの死亡率は国によって大きく違う

新型コロナウイルス(COVID-19)は世界各国で猛威を振るっているが、感染者数とともに、死亡率(死亡者数/感染者数)も国によって大きく異なっている。

以下のグラフは、新型コロナウイルスによる死亡率が高い国(感染者数1000人以上)を順番で並べているが、死亡率は10%超から1%を切る国まで様々である(2020年4月中旬時点)。

出所:Wikipediaなどより筆者作成

なお、日本の死亡率は4月中旬時点においては1%台後半とみられ、ヨーロッパ各国の10%台と比較するとかなり低い水準にとどまっている。

日本は新型コロナウイルスの検査数が少ないことが指摘されており、実際の感染者数はもっと多く死亡率はもう少し低い可能性もある一方、今後さらに感染者が増加すれば医療崩壊が起こり死亡率が高まる可能性もある。ヨーロッパについても、実際の感染者はかなり多く、死亡率は実態を表していないかもしれない。

但し、そのような点を考慮したとしても、国によって死亡率が10%台後半から1%台と大きく違うことは、何か他の重要な要因があると推測される。

新型コロナウイルスによる死亡率が国によって違う要因

新型コロナウイルスによる死亡率が国によって異なる要因について既に何点かが指摘されている。主な要因は以下の通りである。

  • BCGワクチン接種の有無
  • エリアによって流行している新型コロナウイルスの種類が違う
  • 医療崩壊が起きているか否か
  • 高齢化率
  • 病院の病床数・ICUの病床数
  • 気温・湿度

上記の要因について、新型コロナウイルスの死亡率との関係について、実際のデータを踏まえながら相関性を分析していきたいと思う。なお、あくまでもデータによる相関性を客観的にみているだけで、医学的、疫学的な立場で論じているわけではない点についてはご留意いただきたい。

BCGワクチン接種の有無が新型コロナウイルスの死亡率に与える影響

BCGワクチンの接種の有無が、新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えている可能性は国内外で指摘されている。実際にBCGワクチン接種の有無で3つのグループに分けて死亡率をみると、BCGワクチンを接種していない国の方が、死亡率が高いようにみえる。

出所:The BCG World Atlasなどより筆者作成

一方で、中国で流行した新型コロナウイルスと、ヨーロッパや米国で流行している新型コロナウイルスは、ウイルスの種類が違う可能性も指摘されている。

下の地図において、濃いオレンジと紫のエリアがBCGワクチンを受けていない国であり、これらの国はヨーロッパや北米に多いことから、実際は新型コロナウイルスの種類の違いが死亡率の違いに影響を与えている可能性もある。

出所:The BCG World Atlas: A Database of Global BCG Vaccination Policies and Practices

エリア別の新型コロナウイルスの死亡率

アジアやヨーロッパ、北南米に分けて死亡率をみると、ヨーロッパ>北南米>アジア・中東、の順で死亡率が高いことが分かる。以下の研究を参考にすると、ヨーロッパ、アジア、アメリカで流行している新型コロナウイルスの種類が異なっており、これが死亡率に影響を与えている可能性もあるとみられる。

出所:Wikipediaなどより筆者作成

新型コロナウイルスはもともとコウモリが宿主とみられる。ウイルスのリボ核酸(RNA)の塩基配列について、変異パターンをABCの3種類に大別すると、中国のコウモリに近いAは中国や日本の感染者でも見つかったが、米国やオーストラリアの感染者が多かった。

Aから変異したBが武漢市を中心として中国や近隣諸国で爆発的に増えたとみられ、欧米などに飛び火した例は少なかった。Bから変異したCはイタリア、フランス、英国など欧州で多かった。

出所:時事通信「変異パターンは3種類=新型コロナウイルス―ワクチン開発に応用期待・英大学」

人口に占める感染者数・病床数・気温が死亡率に与える影響

その他の要因についてはどうだろうか。例えば、感染者数が人口に対して増加しすぎた場合、医療崩壊を起こし、死亡率が高くなる可能性がある。下の散布図をみると、人口に占める感染者数の比率が高くなると、死亡率は高くなっているようにみえる。

出所:United Nationsなどより筆者作成

高齢者の方が新型コロナウイルスに感染した際の重症化率・死亡率が高いこともよく指摘されており、こちらも以下の散布図をみると、それなりに相関はありそうではある。ただ、先進国ほど高齢化が進んでおりBCGワクチンを接種していないとすると、高齢化が死亡率を高めているのか、BCGワクチンの非接種が死亡率を高めているのか、これだけでは判断は難しい。

出所:World Bankなどより筆者作成

医療崩壊が起きる場合、感染者数が急増する他に、そもそもの病院の病床数やICUの病床数も重要になる。下のチャートを見ると、病床数が多い方が、死亡率は高いようにも見えるが、散布図のみからでははっきりとしない。なお、日本は病院の病床数は世界一である一方、ICUの病床数は少ない。

出所:OECDなどより筆者作成

最後に気温である。インフルエンザなど他のウイルスと同じように、気温が高い方が感染力や死亡率が低くなる可能性も指摘されている。各国の3月の平均気温と死亡率の相関をみると、確かに平均気温が高い方が、死亡率が低いようにも見えるが、こちらも散布図のみからでははっきりしない。

出所:気象庁などより筆者作成

実際にどの要因が新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えているのか

以上、新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えそうな各要因と死亡率の関係を視覚的にみてきた。

視覚的には、BCGワクチン接種の有無やヨーロッパやアジアといったエリアの要因は新型コロナウイルスの死亡率へ影響を与えていそうであり、人口に占める感染者数や高齢化率もそれなりに影響を与えており、病院の病床数や気温については影響が分からないといったようにみえる。

しかし、実際にその要因が新型コロナウイルスの死亡率に影響を与えているかは、①統計的に有意であるかどうか、②他の要因をコントロールした上でなお影響を与えているのか、などもう少し細かく分析する必要がある。

これらについては「なぜ新型コロナウイルス感染症による死亡率は国によって大きく違うのか?(後編)」で分析したい。


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