台湾映画『恋恋風塵』:九份の歴史と台湾の文化

『恋恋風塵』という映画は、1980年代の台湾ニューシネマを担った侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督が、1987年に製作した台湾映画である。侯孝賢監督は外省人であるものの、本省人である脚本担当の呉念眞(ウー・ニェンチェン)の体験をもとにした話となっているため、登場人物の会話はほとんどが台湾語となっている。そのため、中国語(北京語)を話すのは郵便配達や警察、兵士など一部の人たちに限られている。

この映画は、都市化が進む「台北」と、伝統的な生活が残り衰退が進む「九份一帯」という構図のもと、九份の田舎から台北に出てきた少年アワン(阿遠)と少女アフン(阿雲)という幼なじみ二人の甘酸っぱいラブストーリーとなっている。

今回のブログでは、『恋恋風塵』の映画の舞台であり日本人にも観光地として人気の高い九份の歴史について、台北という都会に馴染んでいくアフンと馴染めないアワンについて、台湾の中学校でのルール「髪禁」について、の三つの側面について見ていきたいと思う。

『恋恋風塵』と九份の歴史

今では観光地として日本人にも大人気の九份であるが、意外とその歴史は知られていない。

九份(2019年)

九份の発展は、1889年の鉄道建設の際に、この地で金が見つかったことから始まった。金の採掘が始まると、山あいという悪条件にも関わらず、人が集まり、九份は発展していった。

しかし、1950年代後半から徐々に金が取れなくなると、町は衰退していく。この間、金の代わりに石炭は採掘されていたものの、金と比較すれば収益源としては弱かった。

『恋恋風塵』は、1960年代の終わり頃を舞台としているが、映画の中でも金はほとんど採掘されておらず、基本的に労働者は石炭の採掘を行っている。

石炭の採掘は、ダイナマイトで炭鉱を爆破する必要があるなど、金の採掘と比較して危険が伴い、労働者の環境も悪かった。『恋恋風塵』においても、主人公の父親が仕事中にけがをしていたり、地元の労働者の顔が黒く汚れていたりするのは、石炭の採掘の劣悪な環境を描写している。

以前は安全な金の採掘をしてたであろう地元の労働者たちが、時代の流れとともに、危険な炭鉱の仕事を行わなければならなくなり、この映画にあるように日々文句を言いながらストライキを企てたりするようになったとみられる。

なお、金が取れなくなった後、九份は衰退の一途をたどっていたものの、2000年代になると台湾の経済部が九份の観光地化に力を入れ始め、現在の姿に至る。

『恋恋風塵』:少年アワンと少女アフン

『恋恋風塵』は、登場人物が自身の思いを語るセリフが少なく、登場人物の心情が読み取りづらい。それでも、各シーンを見ていくと、台北という都会の生活になじめないアワンとは対照的に、作中を通して徐々に新しい生活や文化に染まっていくアフンの姿が浮かびあがる。

まずは、地方から台北に出てきた仲間たちと飲み屋で楽しんでいる際に、アフンが他の人から酒を勧められて一口で飲み干すシーン。

その後、お酒なんか飲んでとアワンに小言を言われた後、アフンが男性たちの前で服を脱ぎ、自分の服に孔雀の絵を書いてもらうシーンも象徴的だ。

服装を見ても、アワンの服装は作中を通して大きく変わっていない一方、アフンはカチューシャをつけたり、カラフルなワンピースを着たりと都会の色に染まっていく。

逆に、故郷の九份に帰った際、大量のガチョウが行進する映画を屋外で見ているシーンを切り取ると、アフンは映画にそれほど興味を示していないほか、地元の同世代の人たちとの会話にも加わっていない。そして最後に、アフンは親にも知らせず、郵便局配達員と結婚する。

このように、セリフとして自分の口では述べていないもの、故郷や伝統的な社会から離れていき、都会や新しい社会に徐々に溶け込んでいくアフンの姿が各所にちりばめられている。

これらのシーンから、近代化が進む台北と衰退していく九份という対比ともに、新しい生活や文化に染まっていくアフンと新しい生活・文化に馴染むことができないアワンという構図に気づく。

映画の最後のシーンを見ても、アフンを忘れられないアワンは、アフンからもらった服を着ている。いまだにアフンに未練を感じているアワンは、ここにおいても気持ちを切り替えることができず、新しい一歩を踏み出せていない。

なお、台湾では「兵変」という言葉があるとのこと。兵役がある台湾では、男性が兵役の間に、彼女が浮気し、他に男をつくることを、「兵変」と呼ぶそうである。

兵役のない日本では考えられないものの、男性が兵役中に失恋するのは、台湾ではよくあったことのようである。

『恋恋風塵』と「髪禁」

台湾では15年くらい前までは「髪禁」と呼ばれるルールがあり、中学の学生は髪の長さについて決まりがあったようだ。

元々、1978年に、男性は髪の長さ3cm、女性はパーマ禁止・髪の長さは耳から下1cm程度というルールが文科省によって定められた。

1987年に、教育部(日本の文科省)としてのルールは撤廃され、各学校の判断に委ねられたものの、女性はパーマ・カラー禁止、髪の長さは肩に掛からない程度、男性は額に髪がかからず、耳を出す、もみあげを切るなどがルールとして残った。

その後、2005年頃にこのような「髪禁」のルールが撤廃された模様である。

映画の冒頭で、中学生だった少年アワンと少女アフンも、この「髪禁」のルールに乗っ取っているため、アワンの髪は短く、アフンもおかっぱのようなヘアスタイルであった。

その後、台北に出た二人を見ると、アワンの髪は伸び、アフンも徐々におしゃれな髪形にかわっている。たばこを吸ったり、お酒を飲んだりするシーンとともに、二人が中学校を卒業し、大人として出稼ぎにきたことが分かる。

終わりに

私が好きな昭和の歌謡曲の一つに、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』がある。歌の中に「都会の絵の具に染まらないで帰って」という有名なフレーズがあるが、『恋恋風塵』でも少女アフンが都会である台北に染まっていく一方、少年アワンは最終的に九份という伝統的な社会に戻っていく姿が描かれている。日本も台湾も同じで、特に国が経済的に成長している時には、都会と田舎という対比が鮮明になるのかもしれない。

そして、少女アフン役の辛樹芬は、妻に顔が似ている。

Q&A

R to Y:次はどういうジャンルのドラマが見たいですか?⇒台湾の文化や歴史がわかるドラマ・映画が見たい。ドラマではないけど、悲情城市とか。

Y to R:都会の色に染まったアフンと染まれなかったアワン、どちらに共感しますか?


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