『ママボーイ』過保護されたマザコン男子の初恋を描く台湾映画【あらすじ、感想】

ママボーイ』(原題:初戀慢半拍、英語題名:Mama Boy)は、2022年8月から台湾で上映された恋愛映画。29歳の恋人ができたことがない内気な男性が、年上の女性と出会って仄かな初恋を味わう話。

陳駿霖(アービン・チェン)監督、柯震東(クー・チェンドン)、徐若瑄(ビビアン・スー)、于子育(ユー・ズーユー)、范少勳(ファン・シャオシュン)ら主演。日本では2023年7月7日から上映されています。徐若瑄(ビビアン・スー)は日本でも知名度が高いので、鑑賞する方が増えると良いなと思います。

私は2023年5月に台湾のフライト上でちょうど見れ、甘酸っぱい初恋物語以上に、台湾のネットでもよく見かける「媽寶(ママっ子、マザコン男子)」や「母胎單身(生まれてから一度も恋人ができたことがない人)」の話が強烈すぎて印象に残りました。

『ママボーイ』のあらすじ

小洪(シャオホン)は熱帯魚店で働く29歳の青年。過保護な母親の美玲(メイリン)と2人で暮らしている。礼儀正しく、見た目もハンサムだが、自信がなく内気な性格である。

ある日、小洪(シャオホン)は従兄に連れられて売春宿に行くことになり、ホテルの副支配人の樂樂(ララ)と出会い、年上で魅力的な彼女に惹かれ始める。明るく見える樂樂(ララ)も、同じくらいの年齢の息子である偉傑(ウェイジェ)が反抗的な態度で悩んでおり、徐々に純粋で優しい小洪(シャオホン)に癒しを求めるようになる。

▼予告

『ママボーイ』から学ぶ台湾のネット用語

媽寶(mā bǎo / ㄇㄚ ㄅㄠˇ)

この映画の英語題名「ママボーイ」の通り、「ママっ子」「マザコン男子」のことを指します。

台湾では母親に過度に依存したり、母親との距離感が異様に近かったりする男性を指し、ネット掲示板ではそのことで恋人・夫婦関係に支障が出たり、結婚する時に躊躇、または結婚後に後悔するような書き込みを見ることがあります。「媽寶男」(mā bǎo nán / ㄇㄚ ㄅㄠˇ ㄋㄢˊ)と呼ぶこともあります。

いつ、どこからこの用語が使われ始めたのか、具体的な定義はしっかり調べていませんが、台湾の経済紙『今周刊』で以下の通り「媽寶男の九つの特徴」が記載されています。

  • ストレス耐性が低い
  • 自分で物事を決められない
  • 人とのコミュニケーションが苦手
  • 母親と一緒に住みたがる
  • 世間の苦しみが分からない
  • 色好み(欲求不満)
  • 生活音痴
  • 独立できていない
  • 口癖が「お母さんは~、お母さんによると~(媽媽說)」

※参考:媽寶男的九種特色 – 今周刊

まわりに媽寶はいないと思うので、はっきり分かりませんが、「結婚しても母親と同居したがる」「独立できていない」「何でも母親に聞く」「口癖が『お母さんは~』」というのは、友達から話を聞いたり、SNSなどで見聞きします。

母胎單身(mǔ tāi dān shēn / ㄇㄨˇ ㄊㄞ ㄉㄢ ㄕㄣ)

ここ5年くらいから新しく見るようになったネット用語だと思います。字面上の意味は「母胎」から「單身(シングル、独身)」、すなわち「胎内にいる時からずっと独身」「彼女/彼氏いない歴=年齢」意味となります。

この映画のあらすじは、台湾では普通に「母胎單身の主人公」という風に紹介されていますが、親世代でも分かるのかが気になります。

『ママボーイ』の主要登場人物 / キャスト

※画像はFacebook「甲上娛樂」より

樂樂(ララ)/ 演:徐若瑄(ビビアン・スー)

ホテルの副支配人。

小洪(シャオホン)/ 演:柯震東(クー・チェンドン)

29歳の内気な男性。熱帯魚店(アクアリウムショップ)で働く。

美玲(メイリン)/ 演:于子育(ユー・ズーユー)

小洪(シャオホン)の母親。二人で暮らしており、過保護気味。

偉傑(ウェイジェ)/ 演:范少勳(ファン・シャオシュン)

樂樂(ララ)の息子。

『ママボーイ』の感想

↓↓以下ネタバレにご注意ください↓↓

過保護・過干渉な母親像

この映画を見終わって一番印象に残ったのは、年上女性と年下男性の恋物語ではなく、過保護すぎるお母さんと息子の関係性でした。

お母さんの美玲(メイリン)は早くから息子と二人暮らししており、片親で息子を育てあげたからか、過度に息子を保護し、同時に息子にも依存しているように見えます。例えばスーパー勤務から帰る時も、習い事か趣味で合唱の練習をしに行く時も息子に送迎を頼みます。

趣味で参加している合唱で、1人同年齢の男性が美玲(メイリン)に関心を持ち、紳士的にお誘いをしてきた時も、拒絶・逃げるような態度をとっていたことからも、息子に依存していることが想像できます。

さらには、「もうそろそろ30歳にもなるんだから、早く結婚しなさい」「私はあんたの面倒を一生見ることはできないんだぞ」「早く結婚して安心させなさいよ」と冒頭からお母さんの美玲(メイリン)が発言しており、女性視点で見ると、息子を女性と結婚させて面倒を見させようとする、地雷発言がとても恐ろしかったです。それくらい于子育(ユー・ズーユー)の演技が迫真だったと思います。

内気で引っ込み思案な息子

息子の小洪(シャオホン)に至っても、お母さんに過保護されているため、自分で物事を判断することができなかったり、勤務先でもお客さんと最低限のコミュニケーションしかできませんでした。

例えばお母さんの同僚の娘さんを紹介されて、お見合いした時もほぼ喋らないし、ご飯を一緒に食べているのにその場でお母さんに電話をかけ始め、「彼女にご飯美味しいかどうか聞けばどう?」とアドバイスをもらっていました。もちろん相手の女性はドン引きして後日お断りしますが、美玲(メイリン)は「息子の良さが分からない」と逆切れします。

観客の私も、お見合い相手に負けないくらい、演じているのがあの柯震東(クー・チェンドン)であることを忘れるほど引きました。

大人で魅力的な女性と出会い成長する

そんなもんで、映画の前半30分は「こんなマザコン親子いるか?」とずっと消化不良で、面白おかしく、かつ恐怖も感じながら見ていましたが、従兄が「大人の男になれるよう、いいところに連れていってあげる」と小洪(シャオホン)を無理やり売春宿に連れ出します。

このお調子者の従兄は侯彥西(ホウ・イェンシー)が演じていますが、ここで一気に雰囲気がコメディーっぽくなり、流れを変えてくれたことに感謝です(笑)

もちろん内気な小洪(シャオホン)は初体験をすることがなく、若い女の子たちにも興味を示さず、なんと女の子たちをリードしている樂樂(ララ)のことに惹かれます。このあたりから、小洪(シャオホン)はただ引っ込み思案で勇気がないわけではなく、彼の優しさと純粋さが強調され、私の彼に対する好感度がようやく上がり始めます。

樂樂(ララ)を演じる徐若瑄(ビビアン・スー)は、個人的には台湾ドラマ『華燈初上 -夜を生きる女たち-』に出演した時のママさんと雰囲気が近いですが、より場末な女性の雰囲気を出していました。ちょっとハスキーな声、たばこを吸ったりお酒を飲んだりしている姿を見て、こんなビビアン・スーもいるんだなと思いながら見ていました。

この樂樂(ララ)の良かったところは、年上で恋愛経験が豊富だからといって、小洪(シャオホン)を小馬鹿にすることがなかった点です。彼には「あなたはかっこいいから、もっと自信を持ちなさい」と、自分に自信を持つこと、どう女の子や他人と話題提供してコミュニケーションするかを教えます。そして小洪(シャオホン)も徐々に成長し、明るくなっていきます。

Facebook「甲上娛樂」より

もう一組の母と息子の悩み

ところが、樂樂(ララ)には小洪(シャオホン)と同じくらいの年頃の息子・偉傑(ウェイジェ)がいて、彼は事業に投資して失敗したり、借金を作ったりして追われます。何度も樂樂(ララ)にお金を借りたり、頼ったりしますが、樂樂(ララ)は彼にはイライラしており、顔を合わせると喧嘩します。

息子の偉傑(ウェイジェ)からしても、母親からは十分相手にされず、愛されてこなかったと考えており、特に樂樂(ララ)が小洪(シャオホン)と良い関係になっているのを見ると不満を感じます。

余談ですが、偉傑(ウェイジェ)を演じる范少勳(ファン・シャオシュン)は、最初ちょっと嫌な感じだなと思いましたが、模倣犯ほど恐ろしくなかったので安心。また、借金のくだりで姚淳耀(ジャック・ヤオ)と巫建和(ウー・チエンホー)が一瞬登場して嬉しいです。

小洪(シャオホン)と母親の関係は密着しすぎているのに対し、偉傑(ウェイジェ)は母親とは疎遠しすぎる関係で、まさに対照的だが、どちらの関係性にも問題があります。適度な距離感がやはり重要ですね。

そんな親子関係で悩んでいた樂樂(ララ)は、決して小洪(シャオホン)をもてあそんでいたわけではないと思いますが、やはり小洪(シャオホン)には癒しを求めてしまって、この快適な関係性に甘えてしまったでしょう。

「ワンテンポ遅い初恋」が、大人へと成長させる

樂樂(ララ)との関係性が母親にバレてしまった小洪(シャオホン)は、母親の仕打ちにひどく怒って、おそらく人生初めての反抗期になります。母親の美玲(メイリン)も息子の反抗的な態度に怒り傷つき、改めて息子との接し方を考え直します。樂樂(ララ)も小洪(シャオホン)に甘えてしまったことを反省し、息子の偉傑(ウェイジェ)との関係性を見直そうと思います。

それぞれ距離感を見直し、寂しさを感じると思いますが、小洪(シャオホン)は樂樂(ララ)から学んだことを活かし、ようやくお客様と一歩進んだコミュニケーションができるようになります。(お客さんの黑嘉嘉かわいい)

ちなみに、主人公「小洪(シャオホン)」の人物設定について、監督の陳駿霖(アービン・チェン)によると、「あまり会話する必要がなく、魚の面倒を見ることが内気な主人公に似合っていること」と、「母親に過保護されている息子像が、水槽に閉じ込められて、空を破ることができない魚に一致している」とのことです。

※参考:【娛樂透視】《初戀慢半拍》展現清新喜感 團隊協力形塑愛情成長故事

Facebook「甲上娛樂」より

この映画の中国語題名『初戀慢半拍』は、直訳すると『ワンテンポ遅い初恋』という意味です。小洪(シャオホン)が30代手前にしてようやく人生を初恋を味わった、ということだと思いますが、彼は水槽にいる熱帯魚のように、大切な人に出会うことをずっと待っており、これから本当に重要な人に出会えることを祈ります。

映画『ママボーイ』オフィシャルサイト


ブログの更新情報をメールでお知らせします。
ぜひご登録ください!


 

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2023
最新情報をチェックしよう!