『君が最後の初恋』(原題:當男人戀愛時、Man In Love)は、2021年4月に公開された台湾の恋愛映画。原題は直訳すると「男が恋愛した時」の意。2014年の韓国映画『傷だらけのふたり』をリメイクしたもの。殷振豪(イン・チェンハオ)監督。邱澤(ロイ・チウ)、許瑋甯(ティファニー・シュー)、蔡振南(ツァイ・チェンナン)ら主演。日本では2021年8月20日からNetflixで配信開始。
借金取りの男と借金を負う女性が恋に落ちるという典型的な「お嬢様とチンピラ」の物語だが、王道な展開だからこそ、結末には不覚にも号泣してしまった。また、本作では「父権主義による抑圧」と「母の不在」が描写されていると思われる。本記事では主人公2人に焦点を当てて考察したい。
『君が最後の初恋』のあらすじ
借金の取り立てを行うチンピラ「張孟成」(チャン・モンチョン)こと阿成(アーチョン)は、乱暴に見えるが優しい心の持ち主。そんな彼は、借金取りをきっかけに、父親の借金を肩代わりする女性「吳浩婷」(ウー・ハオティン)に出会い、彼女に一目惚れする。
借金取りに対して強気で巍然と対応する浩婷(ハオティン)に対して、阿成(アーチョン)は数々の手を尽くして彼女に振り向いてもらおうとするが、全く相手にされない。身分も性格も真逆である2人は、分かり合える日が来るのか……。
▼予告(英語字幕つき)
『君が最後の初恋』の登場人物 / キャスト
※一部ネタバレにご注意!
※画像は公式Facebook「當男人戀愛時」より引用
阿成(アーチョン)、本名:張孟成(チャン・モンチョン) / 演:邱澤(ロイ・チウ)
借金取りのチンピラ
借金の取り立てで稼ぐチンピラ。派手で乱暴そうな見た目だが、実は優しい心の持ち主で、借金を負う近隣を陰から助けることも。
借金の取り立てを機に浩婷(ハオティン)と出会い、一目惚れする。
吳浩婷(ウー・ハオティン) / 演:許瑋甯(ティファニー・シュー)
親孝行で気丈なお嬢さん
入院して床に臥せる父親の看病をしつつ、借金を肩代わりするために苦労する一人娘。昼間は農業協同組合で働く。
辛い借金生活で暗い日々を過ごし、恋にも興味を示さないが、阿成(アーチョン)と出会ってから徐々に心を開いていく……?
蔡姊(ツァイ姐さん) / 演:鍾欣凌(チョン・シンリン)
ヤミ金の姉さん
阿成(アーチョン)の上司、ヤミ金融業者のトップ。
阿成(アーチョン)の兄が事業に失敗したため、阿成(アーチョン)が蔡姊(ツァイ姐さん)から借金をし、下で働くようになる。
阿成(アーチョン)の父 / 演:蔡振南(ツァイ・チェンナン)
古風だが息子思いの父
バスの運転手。阿成(アーチョン)を厳しく叱ったりするものの、愛情表現が不器用なだけの古風な父親。
阿成(アーチョン)のことを心配し、早く安定した生活を送れるよう願っている。
張大偉(チャン・ダーウェイ) / 演:藍葦華(ラン・ウェイホア)
阿成(アーチョン)の兄
まっすぐな性格の長男。奥さんと娘がおり、美容室を経営して家族を養う。
過去に事業が失敗し、弟の阿成(アーチョン)が代わりにヤミ金融業者から借金することに。
淑玲(シューリン) / 演:陽靚(ピース・ヤン)
阿成(アーチョン)の兄嫁
兄・張大偉の奥さん。綺麗で上品な見た目だが、芯が強く家族を支えている。
小文(シャオウェン) / 演:白小櫻(バイ・シャオイン)
阿成(アーチョン)の姪っ子
阿成(アーチョン)が可愛がる姪っ子。2人は仲が良く、お小遣いをあげることも多い。夢はアイドルになること。
芽芽(ヤーヤー) / 演:Lulu黃路梓茵(ルー・ズーイン)
阿成(アーチョン)の姪っ子
ブランドバッグなどを買うのが好きで、借金を追う女性。借金返済のため風俗で働き、阿成(アーチョン)と知り合う。
『君が最後の初恋』の見どころ
※以下ネタバレにご注意!
台湾ローカル風の雰囲気にアレンジ
『君が最後の初恋』は2014年の韓国映画『傷だらけのふたり』をリメイクして制作された作品。オリジナルの韓国版をまだ見ていないが、チンピラがお嬢さんに恋をしたり、病気にかかったりなど、いかにも韓国ドラマ風の展開だ。ただ、台湾のギャング映画に出てきそうな阿成(アーチョン)の服装、さとうきびを噛むシーン、廟や台湾ローカルな風景など、適度に台湾の要素やロマンスが盛り込まれている。
また、全編とおして「台湾語」がメインとなるので、より台湾っぽさを感じることもできる。主題歌である茄子蛋EggPlantEggの「愛情你比我想的閣較偉大」(直訳すると「愛情は私が思うよりも偉大」)もすべて台湾語で歌われている。台湾式ロックとロマンスが味わえる良い歌だ。
「お嬢さんと風来坊」という王道恋愛物語
根は優しい借金の取り立て屋が、気丈だが父親思いのお嬢さんに恋をするという、ディズニーの『アラジン』や『わんわん物語』でもお馴染みのストーリーなので、容易に話の展開が読めてしまいそう。それなのに、気づいたら主人公に感情移入し、最後の結末には涙してしまうだろう。
生きている世界が違いすぎる男女2人、チンピラなのに純粋な心を持つというギャップ、そして一途に女性を思い続ける愛情深さ。そんな王道物語が好きな方にはおすすめしたい映画だ。
『君が最後の初恋』の感想
※以下ネタバレにご注意!
「父」をきっかけに出会う2人
本作では「父」が重要な役割を担う。
まずは浩婷(ハオティン)の父。彼女は病で床に臥せる父親の借金を肩代わりしたことで、借金取りの阿成(アーチョン)と出会う。一方、阿成(アーチョン)は入院する父親の世話をする浩婷(ハオティン)の内面にも惚れて、彼女に振り向いてもらうために、勝手に父親を屋上に連れ出したり、漫画の読み聞かせをしたりするようになる。もし「父の借金」がなかったら、2人は出会うことがなく、また恋に落ちることもなかっただろう。
しつこい阿成(アーチョン)のアプローチに対して、振り向きもしない浩婷(ハオティン)だったが、2人の関係は父親が他界した後に急接近する。親族からの援助も受けられず、父親のお葬式で孤独に包まれる浩婷(ハオティン)を、阿成(アーチョン)は借金取りの仲間を引き連れて、葬儀場をたくさんの花やお供えもので飾り、彼女の空っぽだった内心も明るく照らす。「父の他界」をきっかけに、浩婷(ハオティン)はようやく阿成(アーチョン)に心を開き、恋人の関係へと進んでいくのだ。
浩婷(ハオティン)の父が2人の仲を繋げたのに対し、2人の別れは阿成(アーチョン)の父が見届けることになる。阿成(アーチョン)の脳腫瘍が発覚し、命が長くないことを悟ると、彼は独り言のように父親に語る。「彼女の親父さんはもう亡くなった。親父が彼女の父親になってくれないか。頼むから父親になってやれ」と。
認知症が進行する阿成(アーチョン)の父親は、息子のお葬式でこの言葉を思い出し、家を飛び出し浩婷(ハオティン)をみつける。ここで父親と浩婷(ハオティン)は、阿成(アーチョン)の死を通して結び付けられ、ともに同じ悲しさを分かち合う。その後も一緒にバスを乗ったり、会話をするシーンもあるので、関係が続くのではないかと思われる。
「父権」に抑圧された2人
浩婷(ハオティン)は父の病と借金で苦労しながらも、文句を言うことなく淡々と看病や仕事を続ける。また、阿成(アーチョン)が脳腫瘍で倒れてからも、彼女は健気に看病をする。その姿からは「家族に身を捧げる献身的な女性像」が見て取れる。
そのため、フェミニズムの観点からは、時代錯誤な女性像、女性に対する搾取だ、という声もあるようだが、「借金を返すために体を売らないか?」「腎臓を売らないか?」などの勧誘にも巍然と対応したり、ミルクティー屋さんを開きたいという夢を抱くなどの点から、彼女はしっかり自分の意志を持ち、父や阿成(アーチョン)への無償の愛も自ら選択したことではないかと思う。
一方、阿成(アーチョン)も同じく「父=父権」に抑圧された犠牲者であろう。兄の事業が失敗したことで、彼はかわりにヤミ金融業者から借金する。家父長制の観点から考えると、長男である兄は「父=父権」と同じ役割を担うため、阿成(アーチョン)は「父権」に抗えず悪に手を染めたことになる。
家の「父権」に抑圧されるも、家族思いで親孝行な一面を持つ2人は、同じ境遇に置かれた者同士として、惹かれ合うのは偶然ではなく必然だったのだろう。
「母」の不在で際立つ2人の愛情
さらにもう一つ、阿成(アーチョン)と浩婷(ハオティン)は母親がいない点でも共通する。「母」といえば「無償の愛」を子供や家族に捧げる対象として描かれることが多いが。本作では2人を無条件で愛し、守る「母なる存在」が欠如している。
そのかわり、2人はお互いに対して、見返りをもとめない愛情を注いでいる。阿成(アーチョン)が自分の命を捨ててまでお金を取り戻して浩婷(ハオティン)に返そうとしたり、浩婷(ハオティン)が健気に看病するように。典型的な悲恋物語であるものの、「母」という存在がいないからこそ、2人の互いに対する「無償の愛」が際立って見えたのかもしれない。
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