『縄の呪い2』:台湾ホラー映画に登場する台湾民間信仰の儀式「送肉粽」

台湾映画『縄の呪い2』(原題『馗降:粽邪2』)は2020年に公開されたホラー映画、2018年の同シリーズ第1作(原題『粽邪』)と同様、台湾中部の民間信仰儀式「送肉粽」(台湾語発音:sàng bah-tsàng)を題材にしています。

日本のNetflixにはシリーズ第1作がないので、いきなり第2作『縄の呪い2』から視聴しましたが、特に問題なく内容を理解できました。台湾中部の民間伝承、お祓いの儀式が主軸の作品なので、映画をより深く理解できるよう、本作に登場する台湾民間信仰、道教文化についてご紹介します。

『縄の呪い2』のあらすじ

17歳の少女・佳敏(演:許安植/ウィルソン・スー)は小さい頃から霊感を持ち、そのことで悩んでいた。ある日、佳敏は同級生、YouTuberの灰熊と民間伝説の霊「椅仔姑(※)」を呼びだそうとする際、霊を激怒させてしまうが、通り過ぎた道士・火哥(演:李康生/リー・カンション)に助けられて事なきを得る。

火哥は佳敏と同じく霊感を持ち、悪霊退治をこなしてきた道士だが、5年前のある事件を引きずっており、日々酒に浸っていた。ところが、少女佳敏のおばが悪霊に憑りつかれ、謎の首吊り事件が街中で多発する中、火哥はようやく少女に助けの手を差し伸べ、悪霊払いに身を乗り出す。はたして霊能力を持つ火哥は、凶悪な悪霊に打ち勝つことができるのか…?

※椅仔姑とは:台湾民間伝説における女の子の霊。台湾語の発音は「Í-á-koo」。過去に虐待されて亡くなった3歳の女の子が、臨終時も竹椅子に座っていたことから「椅子の霊」という名に。民間儀式では「椅仔姑」の霊を呼び出し、コックリさんに似た形で占いを行う。

▼Netflix『縄の呪い2』 予告編 (日本語字幕付き) ※Netflix Unofficial ファンサイトより

台湾民間儀式「送肉粽」について

映画『縄の呪い』シリーズ第1作と第2作では、一貫して台湾中部の民間儀式「送肉粽」(台湾語発音:sàng bah-tsàng)に焦点を当てています。「送肉粽」とは「首吊り自殺者の霊をまつり、霊気をあの世へ送る」ための魔除け儀式で、台湾中部(特に彰化県)を中心に行われています。(私は台湾北部出身だからか、この映画を見るまで「送肉粽」という民間伝承のことを知らなかったです)

この魔除け儀式は、中国福建省泉州地方から台湾中部の彰化県鹿港に伝わってきました。当初鹿港の人々は、首吊りで亡くなった方に敬意を示すため、粽(ちまき)が束ねられて吊るされる様子に似ていることにちなんで「肉粽」(中国語の粽)と呼ぶようになりました。

粽を束ねて吊るすイメージ(「南粽、北粽不一樣!第一次包粽子就上手!」より)

首吊りの場合、霊気が一番強く、怨霊としてこの世に留まりやすいと言われます。生きている人を捉え、次々と首吊りの自殺者を出してしまうとの言い伝えもあるため、「送肉粽」という儀式を行って、霊をあの世に送り出す伝統が生まれました。

公式Facebook「馗降 粽邪2」より

「送肉粽」儀式の進め方:「跳鍾馗」

儀式の進め方として、道士が台湾民間信仰・道教の魔除けの神様「鍾馗」に扮して行いますが、これを台湾では「跳鍾馗」(鍾馗の舞を踊る)と呼びます。はじめに伝統的な舞を踊った後、行列をなして海辺を目指して進み、海辺についたら儀式中で使った物、霊気がついたとされる物をすべて海上に送り出します。

「跳鍾馗」を行う際、道士は鍾馗の服装を着用し、顔も化粧を施して神様の「鍾馗」に扮します。実は神様ではなく、ただの人間であることが悪霊にバレてしまうと、最悪な場合命を落とすこともあるため、道士は正体がバレないよう、始終声を発することはできず、服装が乱れたらすぐ直して正体を隠す必要があります。

公式Facebook「馗降 粽邪2」より

なお、道士だけでなく、儀式「送肉粽」に参加する人々、近隣の住民は邪気を引き寄せないよう、7つ注意事項を守る必要があると言われています。

  1. 海辺にあるものは拾わない
  2. ネックレスなど、首吊りを想起されるものを首につけてはいけない
  3. 列からはぐれてはいけない
  4. 名前を呼んではいけない
  5. 列が通る際、窓やドアを開けてはいけない
  6. 前に向かって歩く、振り向いてはいけない
  7. 終わった後、廟に行ってお参りをしてから家に戻る

万が一儀式の行列に正面から遭遇したりした場合、一緒に行列に入って最後まで参加するのが良いとされています。また、映画内にも登場する呪符(道教の呪文が書かれたお札)を水に溶かし、身を清めると邪気から身を守ってくれます。

公式Facebook「馗降 粽邪2」より

『縄の呪い2』の撮影秘話

亡者が怨霊になるのを防ぎ、あの世へ送り出す儀式だけあって、「送肉粽」「跳鍾馗」の儀式を行う際はタブーが多くあり、事前に近辺住民にもお知らせをしています。「鍾馗」役を担う道士もリスクを抱えるため、映画やドラマ撮影では本物の道士を起用し、俳優のかわりに儀式の撮影をすることが多いです。

ただ、『縄の呪い2』の撮影では主演の名俳優リー・カンションが自ら「跳鍾馗」で「鍾馗」役を担いたいと言い、スタッフ陣はとても心配していたそう。そのため、制作スタッフは鍾馗廟(鍾馗を祀る廟所)まで赴き、リー・カンションが台湾道教の占い「擲筊」(ポエ占い)で神様に「鍾馗役を受けても良いですか」と聞き、5つの「聖筊」(神様からのGOサイン)をいただいたので、安心して撮影に挑むことができたというエピソードがあります。

ちなみに、この映画の主題歌名も「跳鍾馗」で、PV冒頭に映画で撮影された儀式の模様が少し写っています。

▼『縄の呪い2』(馗降:粽邪2)公式映画主題歌PV「跳鍾馗」-李英宏

原題『馗降:粽邪2』の意味

改めて映画の原題『馗降:粽邪2』を見ると、「馗降」は神様「鍾馗」が人間界に降りてきて悪霊退治すること、「粽邪」は「送肉粽」の「粽=首吊りの亡者」の邪気を指していると分かります。

『縄の呪い2』の見どころ

『縄の呪い2』では「送肉粽」「跳鍾馗」の風習が忠実に再現され、台湾道教のミステリアスな一面が色濃く表れているので、台湾の民間信仰、道教の文化に興味がある方にはぜひ見ていただきたいです。また、主人公の敵となる悪霊はなぜかタイ由来の悪魔であり、「道教の法術でも海外の悪霊を退治できるの?」という斬新な設定も特徴的です。

ただ、悪霊退治のホラー要素は、ホラー映画好きな人からしたらあまり怖くなく、少し物足りないと感じるかもしれません。その代わり、ホラーが大の苦手で、人生で5作以下しか見たことない私でも絶叫せず見れたので、怖いのは嫌だけど、台湾の民間信仰に興味がある方でも安心して見れるはず!

物語の主軸「悪霊退治」と並行して、主人公の道士・火哥と、霊能力を持つ少女・佳敏の関係性にも注目です。同じく霊能力で悩み苦しみ、幸せな道を歩んでいきたい二人の結末に感動してしまい、涙が止まらない…。ホラー要素も感動要素もある台湾色強めのホラー映画でした。

※参考資料(台湾華語・中国語のみ)


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