『返校』ドラマ版:台湾歴史「白色テロ」の史実や、映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』との比較

台湾ドラマ『返校』(Detention)は、台湾歴史「白色テロ」の不安や恐怖を描きつつ、最後に希望も感じさせる傑作だ。本記事では『返校』のモデルとなった史実や、同じく白色テロを扱った歴史上の名作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』との類似点を見ていきたい。

※以下ネタバレ含むのでご注意!

歴史「白色テロ」へのまなざし

『返校』は台湾の人気ホラーゲームを基に映画版とドラマ版が制作されており、いずれも台湾の戦後の歴史「白色テロ」を舞台にしている(時代背景についての詳細はこちら)。ゲーム版、映画版、ドラマ版に共通するのは、翠華高校で教師や生徒らが「読書会」を開き、白色テロ、戒厳令時代に「禁書」とされていた書籍を読んだことをきっかけに、政府から処罰される点である。

実は、『返校』の「読書会事件」は1949年に実際に起きた事件「基隆中學事件」(基隆中学事件)がモデルだと言われている。事件の概要は『返校』と似ており、台湾北部の高校「基隆中学」の校長や教師らが読書会を開いて海外の書物を読ませていたところ、反政府思想を広めたことで多くの教師や学生が逮捕され、7人が死刑、12人が1~15年の有期懲役を判決されたという。

基隆中學事件」は白色テロの初期の出来事だが、その後も読書会や禁書を読んだことを理由に、多くの名門高校のエリート高校生が逮捕され、死刑や有期懲役を宣告されたのだ。

このような歴史について、今の台湾の若者でも知らない人が多いだろう。そこで、『返校』ドラマ版は90年代の後輩「劉芸香」(リウ・ユンシアン)が60年代の先輩「方芮欣」(ファン・ルイシン)と魂を交換し、実際に60年代に戻って出来事を疑似体験する形で、視聴者側にもうまく当時の雰囲気や恐怖を自分事として実感させることができた。

ゲームから映画、ドラマではキーメッセージ「忘れたの?それとも思い出すのが怖い?」が度々繰り返されるが、芮欣(ルイシン)や魏仲廷(ウェイ・ヂョンティン)のように実際に「白色テロ」を体験した人も、90年代の劉芸香(ユンシアン)のように白色テロを経験したことがない若者も、この過去を忘れてはならない、そして正面から向かっていくべきだ、というメッセージをドラマ『返校』から感じ取れた。

名作『牯嶺街少年殺人事件』に対するオマージュ

台湾の「戒厳令」は1949年から1987年まで続いた。戒厳令が解かれた後、「白色テロ」を扱った映画やドラマなどの作品が多く生まれ、中でも『悲情城市』(1989年)と『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991年)は映画史上の傑作として海外からも注目される。

奇しくも、『返校』ドラマ版では『牯嶺街少年殺人事件』の撮影手法や画(え)を彷彿させるシーンがいくつかある。例えば『返校』では、校舎内のガジュマルの木の下で芸香(ユンシアン)と芮欣(ルイシン)が詩や文学について話し合うシーンがある。

『返校』で芸香(ユンシャン)と芮欣(ルイシン)がガジュマルの木の下に座るシーン
(公式Facebook「返校 Detention 影集」より)

このシーンは、『牯嶺街少年殺人事件』で主人公の小四と小明がガジュマルの木の下で語り合う構図によく似ている。光が差し込む中、純粋無垢な少年少女が甘酸っぱい青春を謳歌しているようなこの場面は、映画を見たことがある人なら記憶に残る名シーンであり、『返校』で芸香(ユンシャン)と芮欣(ルイシン)が理想や夢について語る心境とも重なる。

『牯嶺街少年殺人事件』で小明と小四がガジュマルの木の下に座るシーン
(公式Facebook「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」より)

また、『返校』で芸香(ユンシャン)ら生徒が登下校する際に通る塀も、『牯嶺街少年殺人事件』で小四と父親が学校から家に戻るシーンを思い出させる。

『返校』で芸香(ユンシアン)が帰宅するシーン
(公式Facebook「返校 Detention 影集」より)

『牯嶺街少年殺人事件』で小四と父親が学校から帰宅するシーン

特に『返校』第6話で、程文亮(チョン・ウェンリアン)が学校で沈華(シェン・ホワ)先生を殴った後、両親と塀の横を通って自宅に帰るシーンがある。ここでは両親が学校に行って謝罪した後、家に戻る途中で父親が文亮(ウェンシャン)に「お父さんみたいにならないで」「もっと要領よく生きなさい」と伝えている。(下記YouTube 2:35より)

『牯嶺街少年殺人事件』でも小四が先生に怒られた後、父親に引き取られて家に戻る際、塀の横を通りながら父親が「俺の欠点をまねるなよ」と忠告するシーンがある。右側に塀があり、戒厳令の行動基準やモットーが記載されている点といい、父親が息子に戒厳令時代の生き方を忠告する点といい、ふたつの作品では類似点が多いので、白色テロを描く傑作『牯嶺街少年殺人事件』に対するオマージュが『返校』に込められていると思われる。

「自由の雨」:明るい未来へ

ドラマ版『返校』は白色テロの史実にも基づき、白色テロ関連の傑作映画からも影響を受けている名作だと考える。ただ、白色テロ関連の有名映画『悲情城市』や『牯嶺街少年殺人事件』が、視聴後に深いやるせなさと切なさが残るのに対して、ドラマ版『返校』の良いところは、切ない悲恋や歴史の悲劇を強調するだけでなく、最後に希望も感じさせているところだ。

例えば、白色テロの被害者である教師「張明暉」(チャン・ミンホイ)は処刑される前でも決して芮欣(ルイシン)を恨むことなく、凛として「やがて自由の雨が降り注がんことを願う」と希望を残して最期を迎える。そんな先生の悲願を受けて、芸香(ユンシャン)と文亮(ウェンリアン)も最後にようやく笑顔を見せて、現代を生きていく強い意志を感じられた。

(公式Facebook「返校 Detention 影集」より)

歴史上起きてしまったことは決して忘れてはならない。ただ、恨みや憎しみを抱くだけでは何も解決できない、より良い未来に向けて希望を見出すのが重要だ。『返校』の最終話で希望を提示しているところが、過去の白色テロ作品から一段昇華された輝きを放っている。

※台湾ドラマ『返校』のあらすじや登場人物、その他紹介はこちら


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