『童話・世界』塾講師の女子生徒に対する性暴力を描く台湾映画

童話・世界』(英語題名:Fantasy World)は、2022年10月に台湾で上映された台湾映画。塾講師の女子生徒に対する性加害を、人権派弁護士が立ち向かおうとする話。2022年の台北電影節(台北映画祭)のクロージング作品として選ばれた一作。

2023年3月頃に、台北から東京に戻るフライト上で見た時は、シリアスな内容だと思ったものの、途中の塾講師(おじさん)と若い女子高生のギリギリアウトな濡れ場シーンが長く感じた。見知らぬ若い男性二人に挟まれて見ていたので、自意識過剰だと思うけど気まずかった(苦笑)

この映画が公開される前にも、台湾で実際に起きた女子生徒への性加害事件が社会に大きな波紋を広めていたが、その後日本でも大手塾講師が女子生徒に対して盗撮や強制わいせつなどの性犯罪を行った容疑で逮捕された事件があり、教育業界での性犯罪問題への関心が高まっただろう。

ちょうど10月末の台湾映画上映イベントで本作『童話・世界』が上映されることになったので、事件の概要や年齢層は違えど、通じるものはあると思い、ぜひ関心のある方に見ていただきたいなと思った。

『童話・世界』のあらすじ

弁護士の張正煦は、塾講師から性被害を受けたという少女の弁護を請け負うことになった。加害者は湯文華という有名な塾講師で、弁護士の張正煦が17年前に初めて担当した事件と同じ加害者で、かつ事件の手口もよく似ていた……。

▼予告動画

https://www.youtube.com/watch?v=AXeB1IJKVIU

『童話・世界』の見どころ

MeToo運動の流れを受け継ぐ映画

本作は弁護士出身である唐福睿(タン・フーレイ)監督兼脚本家によるデビュー作。唐監督は弁護士として5年働いた後、映画制作という夢を諦められず、奨学金試験を受けてアメリカへ留学した。彼が映画監督を目指してアメリカで留学した頃は、ちょうどMeToo運動が活況になっていた時期で、多大な影響を受けたため、デビュー作として権威性を利用した性犯罪を描くことにしたという。

唐監督の留学時代から時がたち、映画『童話・世界』が台湾で公開された2022年から今年2023年に至るまで、台湾でもまさにMeToo運動が広がっており、日本でも芸能界の性加害問題が波紋を呼んでいる時期なので、教師などの上位者が権威を持って、下位者に対して性加害をすることについて考える良いタイミングだと感じた。

実際の性加害事件を忘れさせない一作

2017年、台湾で『房思琪的初戀樂園』(邦題『房思琪の初恋の楽園』)と題する長編小説が出版された。

10代の女子生徒である房思琪(ファンスーチー)が50代の国語教師から性加害を受け、異常な愛を強いられるもその関係から抜け出せず、心身が壊れていくという話だが、作者林奕含(リン・イーハン)が「実話に基づいた小説である」と記載していること、後に作者が自殺したことなどから、台湾社会に大きな波紋を呼んだ作品である。

読むと気持ちがひどく沈みそうでいまだに読めていないが、日本語訳も2019年に出版されているので、ご興味がある方はぜひ読んでみてください。

※日本語訳:房思琪の初恋の楽園 – 白水社

映画『童話・世界』が、小説『房思琪的初戀樂園』から影響を受けているかは定かではないが、作者が命をかけて訴えようとしたことを、本映画『童話・世界』で改めて話題提起し、上位者による未成年への性加害問題を風化させない風土づくりに繋がるだろう。

『童話・世界』の感想

※以下よりネタバレがありますのでご注意ください!

台湾の塾業界の描写

日本でも受験や塾業界が都会では発展していると思うが、台湾でも受験熱は高く、特に台北駅付近の南陽街あたりは「南陽補習街」と呼ばれ、塾や予備校がずらりと並び、放課後の時間になると晩ご飯を買って塾に向かう学生が多くみられる。(台湾では塾=「補習班」と呼ぶので、「補習街」=「塾ストリート」と言う意味になる)

高校時代は私も数学塾に通っていた一人だが、映画冒頭の塾の景色を見て真っ先に「南陽補習街」の光景を思い出した。台湾映画『ひとつの太陽(陽光普照)』を見たことがある方なら、よりその光景がイメージできるだろう。

そんな塾業界で、大手塾の講師が有名で、17年に渡って女子生徒をたぶらかしているというのが本映画のストーリーだが、日本にもテレビ出演するほど有名なカリスマ塾講師がいるように、台湾でも人気で著名な塾講師が存在するので、そのような塾業界カーストの上層にいるのが本作の加害者なんだろうというのが想像できる。

食事シーンの生々しいメタファー

弁護士が塾講師とごはんを食べるシーンで、明らかに「おっさんである塾講師が選り好みせず、色んな女子生徒に手を出している」という暗喩が隠されているシーンがある。

例えば塾講師・すなわち本作の加害者である湯文華が刺身を好み、お肉に生卵をつけて食べるシーンがある。日本では刺身も生卵も一般的な食べ物であるが、台湾ではあまり生の魚や卵を食べる習慣がないので、女性弁護士からあなたって本当に「不忌口」だねと厭きられる。(「不忌口」=中国語で「嫌いな食べ物がない、何でも食べる」という意味)

後に塾講師の湯文華は多くの女子生徒に手を出しており、タイプも人それぞれということが分かるので、食事シーンで彼の異常な性癖を生々しく描いていると思った。

童話のような真実の愛、それとも愛の形を偽った性暴行?

被害者の女子生徒たちは本当に講師のことを愛していたのか、それとも教師という立場で理性的な判断ができていないのか。とても難しい問題で、映画を見終わってからも私の中では答えが出なかった。

ただ、一つだけ分かったのは、純粋な少女たちの気持ちを利用した塾講師は本当に最低な大人であること。

法廷で弁護士は「老師說他是青蛙王子,所以你相信童話故事?」(先生は自分のことをカエルの王子様と呼んでいたけど、君は童話を信じるのか?)と問いかけ、被害者少女が泣き崩れるシーンがあったが、塾講師は無垢な少女たちが目上の人に対する尊敬の気持ちを都合よく利用し、実際は彼女たちを暗黒の昔話に閉じ込めようとしていたのだろう。

師生戀(教師と生徒の愛)と弁護士の恋

弁護士の張正煦を演じた張孝全(ジョセフ・チャン)、性加害を行う塾講師の湯文華を演じた李康生(リー・カンション)、張孝全の実家近所に住み、妹のように可愛がっていた陳新を演じた江宜蓉(カミー・チアン)の三角関係は複雑で、正直弁護士の女子高校生に対する恋は必要かと若干思ったものの、彼の弁護士人生のスタートとして、キャリア面でもプライベート面でも重大な影響を与えたという設定のためなら必要なのかな。

張孝全(ジョセフ・チャン)は熱血で正義感が強くも苦悩を感じる弁護士が良く似合った。はじめは女子高生の陳新とバスケで遊んだりして、「球 運不好(ボールを上手に運べていない」を「球運 不好(ボール運が悪い)」と親父ギャグっぽいことを言っていた時は、彼でなければダサさを感じていた(笑)

江宜蓉(カミー・チアン)は女子高校生役が思ったほど違和感がなかったけど、やっぱり塾講師との濡れ場シーンは恥ずかしい(フライトで見るもんじゃない)

李康生(リー・カンション)の淡々とした口調と演技は、時々役作りの違いがよく分からなくなるけど、まるで自分は何も悪いことをしていないかのように飄々と振舞う塾講師を見てひどくムカついたので、この役は似合っていたのかもしれない。

教師による性加害といえば、台湾ドラマ『ふたりの私(她和她的她)』にもクズのような教師が登場したが、この二人はまたタイプが異なり、うまくいえないけど、李康生(リー・カンション)の演技は全く後悔を感じられないサイコパスさがあると思った。

先生のとっておきのスポットとして、古いマンションに囲まれて、見上げたら三角形になって飛行機が見える場所で「井の中の蛙」の話をしたところ、ロケ地はどこだろう。他のドラマや映画でも見たことがある気がする。

最後に、本作で一番心に残ったセリフを記録しておきたい。

「一個人心中有恨,也不一定是壞事。女人必須懂得恨,才有辦法活下去。」

(心の中に憎しみがあることは、必ずしも悪いことではない。女は憎しみを理解してこそ生きていける。)

※ヘッダー画像は公式Facebook「童話· 世界 Fantasy·World」より


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