『本日公休』台湾レトロな理髪室と髪形

日本で上映中の台湾映画『本日公休』(原題『本日公休』、英語タイトル”Day Off“)、台湾では2023年3月に上映され、昨年12月にフライト上で鑑賞することができた。レトロな雰囲気や美しい台中の景色が素敵で、特にロケ地となった台中のレトロな理髪室は幼少期の頃を思い出す。その理髪室の窓ガラスに描かれた「學生頭」「山本頭」「西裝頭」「平頭」という髪形の意味を探ってみる。

台湾の理髪室で見る色んな髪形

本映画の監督、傅天余(フー・ティエンユー)の母は実際に理髪室を営んでおり、映画の多くの内容は監督の実際の記憶や経験に基づいているとのこと。ロケ地となった理髪室も、監督の台中の実家で、実在する理髪室で撮影されている。

その理髪室を外から眺めた際に、ガラスに書かれている「學生頭」「山本頭」「西裝頭」「平頭」などの文字は、私が子供のころに近所でみかける伝統的な理髪室とほんとうにそっくりで、とても懐かしい気持ちになった。

これらの文字は理髪室で切ることができる髪形を指しており、今では見ることが少なくなったが、70~80年代には多くあったのではと思われる。90年代以降になると現代的なサロンっぽい美容室が徐々に増えたので、今は見かけることが少なくなった印象だ。

それぞれどんな髪形かをまとめてみよう。

學生頭(学生頭)

その名の通り学生の髪形。特に80-90年代までは、台湾の学校(中学や高校)では「髪禁」という髪型を制限する規則があることが多く、女子生徒だと肩にかからないショートヘア(今風にいうとショートボブ?)にする必要があったので、學生頭といえば女子生徒のショートヘア、もしくは男子生徒の丸刈り頭を思い出す。

髪禁についてはこちらこちらの記事でも紹介している。

ちなみに、映画内では学生役の胡智強(フー・ジーチャン)が、母に髪切りに連れていかれて、前髪だけ切ろうと思ったのにばっさり切られてしまった出来事も、この「髪禁」文化を思い出す。

山本頭

台湾では「ヤクザ、極道がよく切る髪形」なんて言われることもある「山本頭」。髪形は丸刈りに似ているが、額のところをM字型に剃るのが大きな違い

山本」は第二次世界大戦時、日本の海軍軍人である山本五十六が由来。戦時中の髪形が伝わったわけではなく、80年代くらいに大ヒットした映画『連合艦隊』に登場する山本五十六の男気溢れる人物像が大ヒットし、その髪形も台湾で人気になったという。

▼山本頭の歴史

▼山本頭の切り方(額のM字型がトレードマーク)

西裝頭

「西裝」とは、中国語(台湾華語)でスーツ、背広を指す。「西裝頭」とは日本でいう「七三分け」。スーツを着た男性が髪形をビシッと決めていることから伝わったと想像できる。

似たような言葉で、台湾には「油頭」という髪型もあるが、ワックスやヘアオイルで髪形をしっかり決めていることを指すので「西裝頭」に近い。

なお、面白いことに、「西裝頭」の台湾語は「hái-kat-lá」と発音し、日本語の「ハイカラ」が語源だという。読み方はこちらから聞ける。

平頭

日本でいう丸刈り。バリカンで髪を短く剃った髪形。色んな床屋のマスターの説明を調べてみたが、6mm~9mmくらいの長さが多いよう。

台湾では現在徴兵制で、男性は兵役に服する必要があり、その際に髪を剃って「平頭」にする、ということが多い。

YouTubeで「當兵 平頭」(當兵=軍隊に入ること)と検索すると、軍に入る前に髪を剃ることを記録している人が多いことに驚いた。また、兵役といえば、最近台湾の俳優許光漢が兵役に服していることがニュースになったが、その際も「剃平頭」=平頭に剃るのか、と台湾のニュースで連日報道されていた。

ロケ地となった監督の実家と、もともと住んでいる猫の「小虎」が、映画ロケ中も自然と溶け込んでいて微笑ましい。

映画の感想

レトロで懐かしい雰囲気

台湾人の私にとって、映画は全体的にレトロで懐かしさを感じさせる雰囲気だった。理髪室だけでなく、台湾鉄道の「莒光號」が登場したり、主人公の阿蕊(アールイ)の「お金を稼ぐことだけが重要ではない」価値観や、人間関係を大切にする心構えなども、昔のよき時代を思い出させる。現代的な美容室やQB HOUSEも登場するなか、古き良き過去の文化は変わらないよ、というメッセージを感じた。

あるシーンで、阿蕊(アールイ)が赤ちゃんの髪を切る場面で「鴨蛋身,雞蛋臉以後好親戚來相挺」と言葉をかけていたが、これは台湾で子供の生後一か月の際に、初めて髪の毛を切る際に「体形がアヒルの卵のようにほそ長く、顔は鶏の卵のようにきれいな形に、将来親戚からも支えられるように」と祈願する習慣があるそう。私も調べてから初めて知った伝統文化で、勉強になった。

新しい流行語や価値観による新旧対比

レトロな物事や価値観が描かれる一方、阿蕊(アールイ)の3人の子供を通して新しい世代の価値観も時折表現されている。例えば「不吃不穿一輩子也賺不到頭期款」(一生食べず服を買わずにいても、不動産を買う頭金ですら貯められない)と嘆く長男の言葉は、台湾の今の若者がどんなに頑張っても、持ち家を買うことが難しいことを表している。

それに負けじと言わんばかりに、主人公ら台灣歐巴桑(台湾おばさん)も進化し、スマホを駆使して新しい人生の楽しみ方を見つけている。台湾で最近中高年の間で流行っている「長輩圖」だったり、「有一種餓,叫做阿嬤覺得你很餓」(孫を愛するあまり沢山食べさせてしまうおばあちゃんのこと)という流行語も紹介されている。

美しい台中の風景

ロケはほぼ台中で行われたそうだが、ちょっとした街並みの景色も非常に素敵。途中出てきた高校生の彼女は緑色の制服を着ているので台中の名門進学校である女子高「台中女中」の生徒だろうな~、阿蕊(アールイ)と「台灣歐巴桑」たちのプチ旅行先で「高美濕地」行っているな~、ちらっと台中の名産「東泉辣椒醬」が映ったかな~、などと、台北出身の私でも台中のあれこれに思いを巡らせて鑑賞できた。

車関連の格言が心に染みる

理髪室がテーマであるものの、「黑手(注)」こと自動車修理店を営む次女の別れた元旦那の陳立川(チュアン)も重要人物として登場するためか、車に関する格言もいくつか言及されている。

※注:台湾では、車を修理する方だったり、機械関連の職業の方を「黑手(oo-tshiú)」と呼ぶ。

例えば陳立川(チュアン)に新たな出会いが訪れたときの「要是有喜歡,二手的有什麼關係」(好きならば、中古でも関係ないのでは?)、阿蕊(アールイ)が久しく台中から遠出して運転するときの「直直開,就像人生一樣,直直開就順了」(まっすぐ運転すればいい、人生のように、まっすぐ行けば上手くいく)など。人生の格言のようで記憶に残り、昔の台湾映画『ひとつの太陽(陽光普照)』で教習所の講師として働くお父さんを思い出す。

なお、映画内で「馬路三寶」という言葉も出てきたが、台湾のスラングで、路上で危険な運転をするのは「女性、高齢者、高齢女性」の三属性だと表現するもの。

サプライズ出演者

主演の陸小芬(ルー・シャオフェン)が本物の理髪室の方のようだったし、次女役の方志友(ファン・ジーヨウ)、長男役の施名帥(シー・ミンシュアイ)、長女役の陳庭妮(アニー・チェン)もそれぞれの個性を出せている。次女の元旦那役の傅孟柏(フー・モンボー)は、悪い人ではないけど妻視点だと耐えられない一面をうまく演じた。

とくに特別出演で林柏宏(リン・ボーホン)と陳柏霖(チェン・ボーリン)が登場したのは嬉しい。

※ヘッダー画像は公式Facebook「本日公休 Day Off」より


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