台湾ドラマ『忘れても、憶えてる』(原題『忘了我記得』、英語タイトル“Forget You Not”)は、コンビニで働く傍らスタンドアップコメディアンを志望する女性主人公が、認知症が進行する父の面倒を見ながら、仕事や夢、夫や家族との関係に向き合う過程を描く。2025年5月23日からNetflixでグローバル配信開始。
認知症の父親の介護を通して、幼少期のこと、母や夫、友人との関係など人生を振り返る主人公の程樂樂(チェン・ララ)。悲しく切ないシーンも沢山あるけど、彼女がコメディアンとして繰り広げるユーモア溢れるトークショーと、樂樂パパの何度も登場するおやじギャグがあったので重すぎず楽しく視聴できた。二人が雨の中で明るいステップを踏んでいるような気分を一緒に味わえた。
本作に登場した樂樂パパの中国語おやじギャグと、台湾あるあるを紹介したい。
『忘れても、憶えてる』に登場する中国語おやじギャグ
母雞為什麼會發抖?(第一話)
Q:母雞為什麼會發抖
A:母雞斗 ※広東語で「唔知道(m4 zi1 dou3)」=「不知道(知らない)」を意味する
樂樂(ララ)パパこと程光齊(チェン・クァンチー)が入院しているときに看護師に出したクイズ。台湾人の私は意味が分からず、調べてから広東語だと知った。
船長負責開船,水手負責?(第1話)
Q:船長負責開船,水手負責?
A:水手負責關燈(隨手關燈)
中国語の「水手」と「隨手」の発音が似ており、「隨手關燈」(常に電気を消し忘れないように)という慣用句とかけているクイズ。
一件事實,兩件?(第1話)
Q:一件事實,兩件?
A:兩件八十
再婚相手を探すときに、女性が「一件事實」(一件の事実)と言ったら、それを「一件四十」(服一枚40元)とダジャレをかけて、「兩件八十」(服二枚で80元)と勝手に答えている。
誰生了約翰?(第5話)
Q:誰生了約翰?
A:花(花生John)
誰が約翰(ジョン John)を生んだか?の問いに対して、答えは「花」。中国語のピーナッツクリーム「花生醬」は「花生John」の発音に似ていて、「花がJohn」の意味になるから。
為什麼煮開的水最孤獨?(第6話)
Q:為什麼煮開的水最孤獨?
A:因為會咕嘟響
なぜ沸かしたお湯が一番孤独なのか?沸騰したお湯は「咕嘟」と鳴るから。この「咕嘟」という擬音語は中国語の「孤独」に発音が似ている。とんでもないおやじギャグだけど、ドラマ内で作った台湾味のインスタント麺、特に牛肉麺や花雕雞麺などが食べたい。
這世界上什麼動物最沒有方向感?(第7話)
Q:這世界上什麼動物最沒有方向感?
A:麋鹿
これは比較的シンプル。この世で一番方向音痴な動物は?答えは「麋鹿」(日本語では「シフゾウ」というシカ科の動物だそう)。中国語の発音が「迷路」(迷子になる)と同じのため。
『忘れても、憶えてる』の台湾あるある
電子レシートとレシートくじ(第1話)
第一話で、台湾ファミリーマート(全家)で働く樂樂(ララ)がお客さんに「會員還是載具?」と質問したのは、台湾で買い物したらもらえるレシートを電子レシートとして保存する際の保存先を聞いているため。
「會員」=コンビニなどの会員制度と連携したアプリやシステムに保存するか、「載具」=電子レシートを保存する専門アプリのことを指しているだろう。台湾を10年離れている私も、ときどき帰省してこの質問を店員にされたら聞き返してしまう。
台湾では電子レシート一枚につき、一回レシートくじを引くチャンスがある。お客さん役を演じる巫建和、商品一点ずつ分けて会計してほしいということは、どんだけ細かくくじ引きしたいんだろう(笑)
台湾ファミリーマート
ドラマ内で樂樂(ララ)は台湾ファミマでバイトをしているが、現実では台湾ファミマのカフェが、新しいアンバサダーとして謝盈萱(ララを演じた女優)を起用。
ちなみに、ドラマ内でよく樂樂パパが「我家就是你家」「我家不是你家的倉庫」と言っており、台湾ファミマのキャッチコピー「全家就是你家」を思い出させる。だから他のコンビニではなくファミマ店員の設定になったのかな?
先施百貨(第6話)
第6話で樂樂パパが「先施で靴を買った」と言い、樂樂がもう廃業しているよと答えるシーン、MRT南京復興駅近くにあった2010年頃に廃業した「先施百貨」(先施デパート)のことだろう。今は「慶城街1號」という施設になっている。
ドラマ内では認知症が進行している親を見届ける子の辛さを象徴しているシーンだと思った。それとあわせて、私のような故郷を長く離れている人にとって、歳を重ねるに連れ、故郷を離れる歳月が増すに連れ、慣れ親しんでいたお店や光景がどんどん変わっていくことにも郷愁を感じるシーンだった。
※参考:先施百貨|國家文化記憶庫 2.0
台北MRTでは飲食禁止(第7話)
樂樂(ララ)が感情を抑えられず台北捷運(台北MRT)で泣いてしまったシーン、見知らぬ女性がこっそりガムを渡してくれたけど、本来なら台北MRTではガムも水も一切飲食禁止だから、そのルールを打ち破ってでも励ましてあげたい善意を表しているのだろう。
『忘れても、憶えてる』の感想
樂樂父子の関係性には感動させられた。ただ、現実で同じように高齢になった親の介護問題が発生したら、結婚して遠方に住む娘の立場からしたら悩ましいなと思った。
もちろん樂樂みたいに父との時間を大切にしたく、また恩返しをしたいので、仕事や夢となんとか両立し、結婚生活と天秤にかけるケースもあるけど、実際に結婚して子どもが生まれ、自分の家庭を持ったらなかなか両立は難しいのでは?
このドラマだけでなく、自分の親や上の世代を見ると、介護問題に対しては「親を介護施設に送るのは可哀そう」「自分で面倒を見ずヘルパーに頼むのは不幸だ」という考えがまだ根強い気がする。中華圏または儒教の「孝道」ならではの考えか、「養兒防老」子どもを産み育てて将来面倒を見てもらう気持ちがまだ強いのか?
台湾でも、2020年代の設定なのになぜ新しい介護制度「長照2.0」と実態が乖離しているのか、描いている状況が古い……という感想があったが、いずれにせよ、日本同様少子高齢化が進む台湾では、今後の介護問題と考えもいろいろ変わっていくのだろうと、現実的なことを考えてしまった。
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