Disney+で配信されている台湾ドラマ『台湾・クライム・ストーリーズ』(原題『台灣犯罪故事』)、第4~6話の「死とともに生きる者」(原題「生死困局」)。一家惨殺事件の犯人として捕まった極道と、事件の真相を追う記者が対峙し、次第にそれぞれに秘められた秘密が明るみになってくる。善悪とは何か、真実は果たして重要なのかについて考えさせられた一作です。
本ドラマの感想と、作中で登場した中国語のギャグ(冷笑話)をご紹介します。
「死とともに生きる者」のあらすじ
葉家一家惨殺事件の真相を追う新聞記者の李博勝(リー・ポーシェン)は、犯人とされ死刑判決された極道の沈昌戎(シェン・チャンロン)に会いに行く。獄中で沈昌戎(シェン・チャンロン)に犯行の動機や真相を聞き出そうとするが、彼は一貫して容疑を否認し続ける。
事件の真相を追っていくうちに、知られざる秘密が徐々に明るみに出てくる。
▼予告動画(繫体中文字幕)
「死とともに生きる者」の登場人物 / キャスト
李博勝(リー・ポーシェン)/ 演:王柏傑(ワン・ポーチェ)
聯華報(リエンホワ新聞)の記者。スクープのためには手段を選ばない。
獄中にいる沈昌戎(シェン・チャンロン)に積極的に接近し、過去に起きた葉家一家惨殺事件の真相を追う。
沈昌戎(シェン・チャンロン)/ 演:李銘忠(リー・ミンジョン)
華興幫(ホワシン・ギャング)の極道。葉家一家惨殺事件の犯人とされ、死刑囚として収監される。
自分は犯人ではないと主張し、身の潔白を晴らそうとする。
魏旭東(ウェイ・シュードン)/ 演:陳家逵(チェン・ジアクイ)
横柄で傲慢なボンボン息子。葉家一家惨殺事件の情報を握っている。
陳兆萬(ワン)/ 演:徐亨(シュー・ハン)
沈昌戎(シェン・チャンロン)の獄中の友人。脱獄の名人。ずる賢いが、星座占いなどを信じる一面もある。
林木鐘(ムー)/ 演:張再興(チャン・ザイシン)
沈昌戎(シェン・チャンロン)とはライバル関係だったが、後に仲良くなり、彼を華興幫(ホワシン・ギャング)へ招き入れた。
蔡正財 / 演:鄭志偉(チェン・ジーウェイ)
沈昌戎(シェン・チャンロン)が獄中にいるときの看守。彼が李博勝(リー・ポーシェン)とやりとりする橋渡しでもある。
阿哲(チェ)/ 演:林敬倫(ショーン・リン)
李博勝(リー・ポーシェン)の従兄弟。ともに葉家一家惨殺事件の手がかりを追う。
「死とともに生きる者」の感想
※以下ネタバレを含みます!!
実際の人物や事件をモデルにした設定
ドラマ内で言及される「葉家一家惨殺事件」は、資産家である葉正國(イエ・チョンクオ)と奥さん、娘が全員殺害され、唯一息子だけが生き残った事件。1993年10月25日に起きたという設定だが、これは台湾で80~90年代に起きた一家惨殺事件をベースにしています。
実際にどの事件だったかは諸説ありますが、劉煥榮(リウ・ファンロン)という実在した黒社会組織の人と、彼が起こした「陳南光兄弟滅門血案」(陳南光兄弟一家惨殺事件)がモデルである見方が多いです。
劉煥榮(リウ・ファンロン)は竹聯幫(竹聯幇、ちくれんほう)という台湾三大黒社会組織に所属し、80年代に多くの殺人事件を起こし、台湾の重要指名手配犯であった。「陳南光兄弟滅門血案」(陳南光兄弟一家惨殺事件)では家族7人を殺害し、2人の少女が生き残ったため事件が明るみになり、彼は日本へ逃亡する。
しかし、日本で毒物の密輸で日本の警察に逮捕され、台湾へ送還。その後、1986年3月から7年に渡り裁判が行われ、1993年3月5日に死刑判決が言い渡された。
監獄に収監されていた間、彼は多くの善行を行ったという。例えば、本を執筆して児童買春の被害者を支援したり、匿名で募金を募って貧しい家庭にお金を渡したりした。また、獄中で中国画を習い、絵が非常に上手くなったという。生涯で39作の絵画作品を描き上げ、婦人援助団体にすべて寄付した。
1993年3月22日に死刑執行が確定し、3月23日に死刑執行される。遺言として「教育の機会を与えてくれ、成長させてくれた刑務所に感謝します」の言葉を残し、死後は臓器提供を行うことに同意。執行直前に「中華民国万歳!国にお詫びします。皆さまに感謝します」と叫んだことで社会でも話題になった。
(Wikipedia「劉煥榮」より)
獄中で水墨画などの中国画を描き、社会貢献として寄付するところや、極道として多くの殺人を犯し、社会的に見たら悪人であるものの、弱者を助けようとする善良な一面もあるところが、確かにドラマの沈昌戎(シェン・チャンロン)と似通っています。
また、幼い少女が二人だけ生き残ったという一家殺人事件も、今回のドラマで描かれた「幼い少年が一人だけ助かった」という葉家一家惨殺事件にも似ています。
立場や見方によって分かれる「善と悪」
最初に沈昌戎(シェン・チャンロン)を見たときは、恐ろしい極道の極悪殺人犯というイメージが強かったですが、実は李博勝(リー・ポーシェン)こそ葉家の唯一の生き残りの息子・葉宗佑(イエ・チャンユー)であることが分かり、徐々に過去の真相が紐解かれていくと、彼は実は葉家、特に子供に対して愛情いっぱい注ぎ、献身的に家族を守ろうとしていたことが分かり、実はとても優しい人ではないかという気持ちが強くなります。
李博勝(リー・ポーシェン)こそ葉宗佑(イエ・チャンユー)にとっても、沈昌戎(シェン・チャンロン)が家族を殺した犯人であることは信じがたく、だからこそ身の危険を顧みず、事件の真相を追い続け、沈昌戎(シェン・チャンロン)の脱獄まで助けたのでしょう。
それだけに、最後に判明した真犯人の魏旭東(ウェイ・シュードン)が、深い憎しみから犯行に至ったわけではなく、ただのちっぽけなカネの欲望と、犯行がばれないようにするために一家を殺したことに怒りを抑えられません。
魏旭東(ウェイ・シュードン)を殺そうとする葉宗佑(イエ・チャンユー)のシーンでは、「頼むから罪を起こさないでくれ」と必死に祈りましたが、彼かわって引き金を引いた沈昌戎(シェン・チャンロン)を見て、ほっとする傍ら悲しくもなりました。本来なら警察に差し出すべきだが、証拠が足りない、または「自分はすでに多くの殺人を犯しているから、地獄に落ちるべきだ(罪を償うべきだ)。であればせめて葉宗佑(イエ・チャンユー)を守って、かわりに復讐してあげたい」という気持ちから引き金を引いたのでしょう。
時折登場するユーモアとギャグ
愛と憎しみ―そんな重い雰囲気の本ドラマですが、適度にユーモアな場面も挿入され、緩急をつけています。
例えば極道で武侠小説が好きな沈昌戎(シェン・チャンロン)は「なぞなぞ」が好き。子供の葉宗佑(イエ・チャンユー)になぞなぞを出題して「くだらねえ!」とはしゃぐシーンはとても微笑ましかったです。記者として面会する際も、禅問答のように質問を繰り返しましたが、「君、葉宗佑(イエ・チャンユー)だろう」と知っていたことを表す伏線でしょう。
また、「なぞなぞ」について、ドラマ内でこんなセリフがありました。
你是沒喝過早餐店的奶茶喔?
台湾の朝ご飯屋さんに行ったことがあれば分かりますが、豆乳や紅茶などのカップについているビニールの蓋があり、その上には大抵なぞなぞやギャグが印字されているのです。なので「朝ご飯屋のミルクティーを飲んだことないのか?」=「謎解きができないのかよ?」という揶揄になります。
沈昌戎(シェン・チャンロン)が幼少期の葉宗佑(イエ・チャンユー)に出したなぞなぞで、私が一番くだらないけど面白いと思ったのはこちらです。
Q:阿拉丁有幾個哥哥?(アラジンには何人お兄さんがいる?)
A:3個。阿拉甲、阿拉乙、阿拉丙(3人)
中国語が分からないと難しく、字幕でも訳せないですが、まず、アラジンの中国語は「阿拉丁」です。さらに、最後の文字「丁」は、日本語にもある通り「十干(じっかん)」という序列を指し示すための記号です。
十干では「甲乙丙丁」と続くので、阿拉丁(アラジン)は序列に沿って「阿拉甲、阿拉乙、阿拉丙」と名付けられたお兄さんたちに続き、4人目の息子として「阿拉丁」と名付けられた、という完全なギャグです。
台湾人としてはくだらなすぎて笑いましたが、日本人の方だとあまり共感してもらえないかもしれないですね(笑)
他にも、脱獄名人の陳兆萬(ワン)が面白かったり、記者としての李博勝(リー・ポーシェン)が「搞軌案(列車脱線案)を追う」と前シリーズの話が登場したり、懐かしのMOTOROLA(モトローラ)のガラケーが登場したり、ずっと重苦しい雰囲気ではないのが良かったです。
号泣した最期のシーン―「さらば愛しき縁なき人」
真ん中は笑いもありつつ視聴できましたが、沈昌戎(シェン・チャンロン)が真犯人を殺して捕まり、死刑執行されるシーンは本当に悲しくて感動的でずっと泣いていました。
沈昌戎(シェン・チャンロン)を演じた李銘忠(リー・ミンジョン)は、恐ろしくも優しい一面を持つ点をうまく演じましたが、処刑されるシーンこそ演技の真骨頂を発揮したと思います。もう死を覚悟し、「自分は地獄に落ちる」と言ったような潔さもありつつ、足取りがおぼつかなくなったり、人間としての弱い一面も垣間見え、複雑な心境になります。
また、最期に立ち会うことはできなかったものの、塀の外から沈昌戎(シェン・チャンロン)と一緒に歩き、彼が好きだった歌「再會啦心愛的無緣的人」を流す葉宗佑(イエ・チャンユー)も、深く悲しみながらも複雑な心境であることが伝わります。王柏傑(ワン・ポーチェ)は最近お坊ちゃまかチャラ男役しか見なかったので、なおさら今回の演技がとても印象に残りました。
この処刑前のシーンと、監獄や他のシーンでも何度か出てきた台湾語の歌は施文彬 Michael Shihの「再會啦心愛的無緣的人」です。タイトルを直訳すると「さらば愛しき縁なき人」の意味。組織のために悪人として働き、恐れられた沈昌戎(シェン・チャンロン)の寂しい気持ちにぴったりで、とても良い選曲です。
途中は登場人物が多すぎて、聰哥(チャン)や譚哥(タン)など黒社会のアニキの名前が覚えられず、林木鐘(ムー)との関係もよく分からなかったですが、とにかく主演2名の演技が感動的で、最期のシーンが記憶に残りました。
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